99年のオフシーズンにベイスターズの佐々木投手のシアトル・マリナーズ入りが決定し、日本人として10人目の大リーガーが誕生した。95年にバファローズの野茂投手がドジャース入りして以来、長谷川、伊良部、吉井など、多くの日本人プロ野球選手(投手)がアメリカ大リーグを目指すようになった。これは、より高度なプレイを目指して技術的にレベルの高い選手が集まっているリーグに挑戦するという意味において、サッカーのプロ選手(Jリーガー)がイタリアのセリエA等のヨーロッパのプロ・リーグに加わることと、同じ現象といえる。が、プロ野球選手の場合は、少々事情が異なる点もある。
それは、サッカー選手が国際組織(FIFA)のなかの一員として活動し、日本代表チームへの参加とワールドカップでの活躍を最終目標としているのに対して、野球の場合はそのようなプロの国際組織が存在せず、あくまでもアメリカ大リーグが最高の目標になっている点である。しかもアメリカに次いで世界第二の野球発展国といえる日本のプロ野球組織が、「企業スポーツ」の域にとどまり続け、世界のスポーツ界のあり方から見ると「異状」といえる組織運営になっている点も見落とせない。
日本のプロ野球は、1936(昭和11)年のリーグ戦発足時にはアメリカ大リーグを手本とし、球団は本拠地都市の象徴として市民に支えられるなかで野球の発展をめざす方針が打ち出された(そのため球団名にも、東京ジャイアンツ、大阪タイガース等の都市名が冠せられた)。しかし、戦後、マスメディア(テレビ)の発達のなかで、読売新聞社・日本テレビという巨大メディアを親会社とするジャイアンツ球団のみが全国規模の莫大な人気と利益を生むようになった。
その一方で他球団(とくにパ・リーグ球団)の経営が極端に悪化。巨額の累積赤字のなかで親会社の変更(球団の売却)が相次ぎ、プロ野球は「市民の象徴」という初期(所期)の目的から離れ、親会社の宣伝媒体(赤字は宣伝費)ととらえるようになった。
その結果、新聞の販売拡張とテレビの視聴率の向上を目的とするジャイアンツを頂点に、日本のプロ野球は「日本野球の発展」以上に親会社の利益を追求するようになり、外面的な人気(メディアの報道)とは裏腹に、停滞を続けることになる。
その停滞ぶりは、アメリカ大リーグの発展と比較すれば一目瞭然で、1950年にはアメリカン・ナショナル両リーグ16球団で各リーグの優勝チームがワールドシリーズを闘っていた大リーグは、1999年には30球団に増加。
二つのリーグも東・中・西の三地域に別れて優勝争いを行い、プレイオフ、リーグ・チャンピオンシップ、ワールドシリーズを順次行うシステムで人気(観客動員)も上昇した。また、全国ネットのテレビ放映権料を一括してコミッショナーが管理し、各球団に平等に分配するシステムを確立したうえ、収入の多い大都市球団が収入の少ない地方都市球団に収入の一部を分配する制度(レベニュー・シェアリング・システム)を導入。
さらに、ヨーロッパ、南アメリカ、アジアをマイナー・リーグ地域ととらえ、全世界から優秀な選手を大リーグにスカウトする世界戦略を採用し、アメリカ野球界全体の発展を遂げている。その結果、選手組合の諸要求にも答えられるようになり、フリーエージェント(FA)制度の導入等選手の待遇は改善され、年俸1千万ドルを超える選手が続出するようにもなった。
それに対して親会社の利益のみを追求してきた日本のプロ野球は、球団の増加やマイナーリーグ(二軍)の整備など眼中になく、ドラフト制度の改革(逆指名の導入)やFA制度の導入も球界運営で主導権を握るジャイアンツが有力選手を獲得するための方策にしかならなかった。観客動員数の正確な発表もないためプロ野球全体の人気の動向すらわからないなかで、オリンピックへのプロ選手派遣も意見の一致を見ず、選手は交渉に代理人を立てるという正当な権利すら行使できないでいる。
横浜や広島といた市民球団を目指すチームも存在するが、巨大なマスメディアの力を持つジャイアンツが「全国制覇」をめざしているかぎり、日本のプロ野球に「改革」は期待できず、そのような「将来の目的のない日本の野球界」を離れてアメリカ大リーグを目指す選手が増加しているという現状は、いずれ日本のプロ野球が崩壊する前兆といえるのではないだろうか。
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はてさて、この原稿を書いてから6年を経た現在、情況は変わったか?
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