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《より速く より高く より強く》−−これは「近代オリンピックのモットー(標語)」で、競技者の目指すべき基本的目標とされている。
オリンピックは「勝つこと」よりも「参加すること」が讃えられているから、このモットーは、競技の相手よりも「速く(高く、強く)」という意味ではなく、「自分の過去の記録よりも速く(高く、強く)」と考えるべきで、「相手に勝つ」ことよりも「自分の成長」を目指すべき、というわけだ。
が、1960年のローマ五輪で、ドイツ代表選手としてボートのエイトで金メダルを獲得し、哲学者としてカールスルーエ大学の名誉教授を務めたハンス・レンク氏(1935〜2024)は、この標語だけでは不十分として、《より美しく》と《より人間らしく》を加えることを主張した。
なるほど、どんな競技でも素晴らしいパフォーマンスには必ず美しさを伴うから、《より美しく》は理解できる。
《より人間らしく》は少々理解しにくいが、競技に正々堂々と臨み、不正を行わない(ドーピングや反則をしない)ことを、人間ならではの美徳と考えれば、《より人間らしく》も素晴らしい「モットー」だと納得できる。
このハンス・レンクの考え(思考法)が素晴らしいのは、新しい考えを提示していることよりも、むしろ今ある考えを疑っていることにあるだろう。
近代オリンピックが「モットー(標語)」として掲げている「より速く・高く・強く」という言葉は、それで十分なのか?
ひょっとしてそれらは近代という時代の産物で、ポスト近代には、当てはまらないのではないか?
未来には「速くなくても、高くなくても、強くなくても……良い」という時代が訪れるかもしれないのだ。
そのとき、オリンピックのモットーは、ハンス・レンク氏が付け加えた二つだけが残るのかもしれない……?
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