先日、ある本を読んでいたら、「悪事千里を走る」という諺に出会った。
「悪い行いや、悪い評判はすぐに広く知れ渡る」との意味だが、そう言えば、「悪に走る」という言葉もあり(「善に走る」とは言いませんよね)、「走る」という言葉は、あまり良い意味には使われていないように思えた。
そこで「ことわざ」を集めた辞典を調べてみると……「走れば躓く」「走らんと欲すれば、まず転ぶことを学べ」と、走ること(急ぐこと)を諫める言葉が並んでいたり、「虫唾が走る」(気持ちが悪いこと)「利に走る」(利益の追求ばかりする)「空耳を走らす」(聞いてるのに聞いてないふりをする)……と、良い意味の諺はあまり並んでいなかった。
日本語だけではない。英語にも「ウォーク・ドント・ランWalk, don't Run!」(歩け、走るな!=急がば回れ)という諺がある。
スペインにも「よく走る者は、すぐに止まる」(物事は忍耐強くゆっくり行え)との諺があり、アフリカのスワヒリ語にも「走ることは、必ずしもゴールに到着しない」(努力は結果につながらない)という諺があるという。
古今東西を問わず、どうも人間は(早く)走るよりも(堂々と)落ち着いているほうが「良し」と考えているようだ。
しかし、哲学者ソクラテスは、弟子のカルミデスに向かってこう言った。
「早く動くほうが物静かなものより美しく見える。従って思慮ある生活も物静かではないはずだ」。
近代オリンピックの元になる古代オリンピアの祭典を生んだ都市国家の哲学者が「早く動く(走る)」ことを「美し」く「思慮ある生活」と讃えたことには、我々現代人も注目すべきですね。
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