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前号の本欄で、足を揃えてイッチニイ、イッチニイ……と走ることは、身体を鍛えるよりも、チームの一体感を醸成する精神的行為、という話を書いた。が、そんな結論を吹き飛ばす言葉を発した元野球選手がいた。
それは西鉄ライオンズ(現西武)の大ホームラン王の中西太さん。
オリックス球団でイチロー選手などを指導する打撃コーチをしていたときに、「西鉄球団でも練習開始のときには、イッチニイ、イッチニイ……と選手が足を揃えて走ったりしたのですか?」と訊いてみた。
私がそんな質問をしたのは、「野武士軍団」と呼ばれ、個性豊かな選手が勢揃いしていた西鉄ライオンズでは、そんな画一的で軍隊的とも言える練習はやらなかったのでは? と思ったからだ。
が、予想に反して中西さんは、「ああ、必ずみんなで走ったよ」と答えたので驚いた。 さらに、その後の言葉にも、仰天した。
「前の晩に呑んだ酒を抜くには、みんなで歌をうたいながら走って汗を流す。それが一番! それで二日酔いの酒も抜けたよ。?あなたのリードで、島田も揺れる、チークダンスの、悩ましさ……」
そのとき中西さんが歌い出したのは、昭和30年代に大ヒットした『芸者ワルツ』という「お座敷ソング(歌謡曲)」。「島田」というのは芸者さんが結った日本髪のこと。私が艶っぽいその唄に唖然としていると、中西さんはこう続けた。
「三拍子のワルツで走るのは、けっこう難しい。けど右足と左足に順々に力が入って、酔い覚ましにも身体を鍛えるにも、最高に良かったよ」
さすがは「野武士軍団」のリーダーと思うほかなく、その後、三拍子で走ることがメッチャクチャ難しいことも、自分でやってみてわかったのだった。
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