3月18日発売の『新潮45』4月号に掲載された森山高至氏(建築家・建築エコノミスト)の『「新国立競技場」に断固反対する』という記事を読んで驚いた。
この記事を読むまで、私はコンペで選ばれたザハ・ハディド氏の設計した新国立競技場に大賛成していた。
大きすぎるとか、神宮の森の周囲の景観に合わないとか、建設費がかかりすぎるとか、五輪後の使用の目処が立たない……等々、反対意見は少なくなかったが、どうせ新しい建物を建設するなら、巨大なUFOが舞い降りたような設計は未来への希望の象徴のようでもあり、これくらい斬新なパワーにあふれているほうが面白い、と私は思っていた。
現在の競技場も創建当初は7万1715人の観客収容数で、8万人収容の新国立は決して大きくない。また、サッカー、ラグビーの試合やコンサートだけでなく、スポーツをいつでも誰でも楽しめ、ディズニーランドに並ぶほどのスポーツ・アミューズメントパークを作れば経営的維持管理もできるはず、と思っていた。
ところが森山氏のレポートによると、この建築物は《陸上に建設しようとする巨大な橋梁》であり、建築物の部材の運送、現地での吊り上げ、敷地の周辺の余地、交通網や周辺への影響……等、問題が山積みなのだ。
しかもこの設計コンペはデザインだけのコンペで、本格的な設計図はこれから作成されるという(おまけにこれほど巨大な建築物にもかかわらず、審査時に模型もなく、デザイン画だけで審査されたという)。
予算の関係で既にデザインが一部見直され、規模が縮小され、その結果ハディド氏の狙い(私が面白いと思った点)は消えてしまったともいえるらしい(だったら、中途半端な建築物が出来るだけで、意味ないじゃん!)。
おまけにハディド氏のデザインが選ばれた理由や審査経過は、なぜか一切公表が拒否されているのだ。審査委員長の安藤忠雄氏は、この審査の件に関して一切の取材を拒否。
外苑の緑を伐採し、日本青年館も取り壊し、現在の国立競技場の照明灯の最上部よりも20メートル以上高い屋根が東京ドームの約3個分の大きさで出来上がり(だから、私がカッコイイと思ったデザインも、ヘリコプターで空に飛んで見ないとわからない!)、その屋根の下には戦艦大和もクイーンエリザベス3世号もスッポリと収まるという巨大建築は、おそらくオリンピック後のサッカー、ラグビー、コンサート等に利用されることもほとんどないだろう。
サッカー・ジャーナリストの後藤健生氏は、航空機=空母が主役の第二次大戦中に戦艦大和を作った「大艦巨砲主義」と同じ、と言う。要するに、いま「日本」は、とんでもないナンセンスな事業に莫大な国費をつぎ込もうとしているのだ。
はたして新国立競技場は、本当に建設できるのか? どう考えても、森山氏が書いたように、現在の競技場を改修維持する事が得策で、2020年のオリンピック・パラリンピックのためにも、日本のスポーツのためにも、東京という都市のためにも、神宮外苑という公園のためにもイイコトのように思えるのだが……。
あるいは、ザハ・ハディドのデザインによる巨大建築物は、東大教授で柔道部長の松原隆一郎氏が4月11日の東京新聞夕刊に書かれたように、神宮外苑でなく湾岸地域へ移して建設したほうがいいのか……。
ここは勇気を持って、関係者は、ザハ・ハディド案を見直す決定を下すべきではないだろうか。 |