ワールドカップで優勝したドイツの見事なサッカーを見ながら、私は15年程前に訪れたハンブルクのスポーツクラブ(HSV)のことを思い出していた。
HSV(ハー・エス・ファウ)とはハンブルガー・シュポルト・フェライン(Hamburger Sport-Vereinハンブルク・スポーツ協会)の略。元日本代表の高原選手も所属したサッカークラブを中心に、様々なスポーツクラブが存在し、多くの市民が会費(小生の聞いた約10年前は月額20ユーロ)を払って、スポーツを楽しんでいる市民クラブ組織でもある。
そこにはホッケーとラグビー兼用の天然芝のサッカー場が4面あった。さらに、バスケットやバレーのコートが2面取れ、体操、卓球、柔道等にも用いられる体育館が2棟、テニスコートが32面、それにファミレスのような食堂とパブのようなバーが各2軒あり、クラブハウスには広いシャワールームやロッカールームや会議室が完備していた。
私が訪れたときは、4人部屋が20室ほどある合宿所の建設中で、広報担当者は、完成すると小中学生たちも家族に心配をかけることなく、一定期間スポーツに集中できる、と言って胸を張った。
その施設はサッカーのエリート選手を育てるほか一般市民にも開放され、企業の研修会や地域の親睦会、一般の子供たちのスポーツ入門合宿等にも利用されるとのことだった。
そこで私は広報担当者に「なぜ、こんな素晴らしい施設を作るのか?」と質問した。すると中年の広報氏は蓄えた口髭を歪め、語気を荒げて「ムス!ムス!(Mus!)」と繰り返した。これは英語のmustの意。
「やらなければならないだろ! なぜ当たり前のことを訊くんだ!?」そんなメッセージが、広報氏の怪訝な表情から伺えた。
ドイツでは地域社会の核にブンデスリーガ(州リーグ)のスポーツクラブが存在する。それは、企業がチームを所有する我が国のプロ野球などとは、まったく異なる「社会的存在」なのだ。
そして、社会的存在であるスポーツクラブは、都市の生活を豊かにすると同時に、学校教育以外のスポーツによる青少年の教育や育成も担っているのだ。だから「Mus!」という言葉が発せられたのだ。
日本のJリーグは、そのブンデスリーガを目標に創立された。そのことを忘れてならないのは当然だが、2020東京五輪の関係者も、単なるイベント開催やメダル獲得に邁進するのではなく、改めてドイツのスポーツのあり方を学び、見習ってほしいものだ。 |