試合前の甲子園球場に足を運ぶと、今年は、昨年までとは異なる光景を目にする。
たとえば、打撃投手が入念なトレーニングに打ち込んでいる。バッターが打撃練習でケージに入る前、ファウル・グラウンドで柔軟体操を繰り返し、自分の「登板」に備えている。星野タイガースでは、打撃投手にも「真剣勝負」が要求されるのだ。
「今年は打撃投手のがんばりが打線の好調につながっている」と、田淵チーフ打撃コーチはいう。「アリアスが外角のスライダーを打てないとなると、実戦と同じような厳しいスライダーを外角に何球も投げてくれる。その練習も怠らない」それが〈3割打線〉につながっているというのだ。
昨年オフに、星野監督は23人もの選手を「リストラ」した。が、打撃投手をふくむ、さらに数人の裏方選手も「リストラ」された。「まさか自分までが・・・」と嘆いた選手もいたという。
彼らは、プロ選手としての成功を断念したのと引き替えに、打撃投手や球団職員としての安定した生涯を獲得した、と思っていたかもしれない。が、星野監督は、裏方選手にも、球団職員にも、「プロの仕事」を要求する。それは、星野監督にとっては当たり前のこと、いや、現在の世の中の常識としても、当然のことといえるに違いない。
バブル経済の崩壊直後、ある夕刊紙に書かれた文章が、いまも強く印象に残っている。
《サラリーマンは、営業途中にちょっと公園で昼寝ということもできない時代になった》
この一文を読んで失笑を禁じ得ないのは私だけではあるまい。そういえば高度経済成長の時代にも、《サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ》という歌が大流行した。タイムレコーダーさえガチャンと押しておけば、どうにか格好はつくもので、《ちょっくらちょいとパアにはなりゃしない》という歌が・・・。
高度成長とバブルに浮かれた時代のほうが「異常」だったに違いない。 |