東京2020オリンピック・パラリンピックを巡り、組織委の元理事と紳士服メーカーの創業者などが、収賄容疑で逮捕された。
この事件が今後どんな展開を見せるのか? また、2030年札幌冬季五輪招致にどんな影響を及ぼすのか? 予断を許さない状況だが、この事件に関連して、少し誤った報道が散見されたので訂正しておきたいと思う。
それはオリンピックの「商業主義」が1984年ロサンゼルス大会から始まったという報道だ。この指摘は、半分正しく、半分間違っている。
ロス大会の4年前の80年モスクワ大会がソビエト連邦(現ロシア)のアフガニスタン侵攻に反対するアメリカなど西側諸国によってボイコットされ、しかも84年大会の開催に立候補を表明していたイランにイスラム革命が発生。パーレビ国王が失脚し、大会を開催できる都市がなくなってしまった。
そこでIOC(国際オリンピック委員会)は約半世紀前の32年に開催した経験のあるロサンゼルスに2度目の開催を依頼。
ところがロサンゼルス市は、76年モントリオール大会がオイルショックに見舞われ、巨額の赤字を計上したことを懸念(実際今日の貨幣価値で1兆円以上の赤字が出たため、同市とケベック州は煙草税や不動産税の増税による赤字解消が20年以上もかかったという)。
そこでロサンゼルス市議会は「税金を1セントも使わないなら」との条件をつけたうえで開催を承認したのだった。
その厳しい条件を受け入れた組織委会長のピーター・ユベロス(43歳)は、徹底した経費節減を断行。
メインスタジアムは32年五輪の会場を改装して使用。水泳や体操競技はUCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)の体育館やプール、選手村も同校の学生寮を使用した。
そして収入面でも新機軸を打ち出し、1業種1社としてスポンサーになりたい企業にスポンサー料の値上げを競わせ、会場に並べた企業の看板の広告費だけで約300億円を計上。
テレビの放送権料もモスクワ大会の3倍以上の約700億円とし、記念コインの収入や入場料収入などを合わせると、合計約500億円の黒字を記録したのだった。
加えて聖火リレーは、走りたい人に1キロ3千ドル(当時のレートで約69万円)で販売。その利益1千2百万ドルは大会運営費に加える必要もなく全額慈善団体に寄付され、税金を1セントも使わなかった大会の黒字は、すべてアメリカのスポーツ団体に振り分けられたのだった。
ここで既に気づいた人もおられるだろうが、オリンピックはやりようによっては「税金を1円も使わず」にやれるはずなのだ。もちろん競技種目数が大幅に増加し、パラリンピックも同時開催する現状と、約半世紀前の大会を同列に並べて比較することはできないだろう。
しかしユベロスのやった「商業主義五輪」の方法論は、そのほとんどすべてをIOCが引き継ぎ、IOCの下部組織であるNPO団体や株式会社、それにIOCや組織委と関係のある広告会社や企業が利益を求めて活動することになったのだ。
ロサンゼルス五輪の商業主義なら商業主義も悪くはない。考えるべきは、どうすれば「ロス型商業五輪」に戻せるか? それを邪魔して、多額の苦的資金(税金)を投入させてまで「金儲け五輪」にしているのは誰か?ということなのだ。
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