プロテニスプレイヤーで女子ダブルス世界ランキング1位にまでなったことのある彰帥さんが、中国共産党幹部の張高麗元副首相に不倫関係を強要されていたとの告白をインターネットに投稿。
その後消息不明に陥っていた事件は、IOC(国際オリンピック委員会)バッハ会長がテレビ電話で無事を確認した、と彰さんの笑顔の写真付で公開。
しかし中国政府の彰さんに対する人権抑圧疑惑は晴れず、来年2月の北京冬季五輪のボイコット(または政府関係者の五輪不参加=外交ボイコット)の声が高まっている(アメリカは廃校ボイコットを決定した)。
今後の展開は予測不能だが、これとそっくりの事件が、過去にもあったことを想起すべきだろう。
1936年ヒトラー率いるナチス・ドイツの手によって開催されたベルリン・オリンピックだ。
ナチスによるユダヤ人迫害が世界的大問題となり、ボイコットの声が高まるなかIOCは調査団を派遣。その調査団の団長が当時USOC(アメリカ・オリンピック委員会)会長で、のちにIOC会長となり、東京五輪や札幌冬季五輪の開催に尽力したアベリー・ブランデージだった。
そのブランデージが残した報告書は、ナチスによるユダヤ人迫害など存在しない、というもので、それによって世界中のベルリン五輪ボイコット論は急速に勢いを失ったのだった。
が、近年の調査研究で、実はブランデージ自身が強い反ユダヤ主義思想の持ち主で、ヒトラー・ナチスを《聡明で慈悲の心に溢れた独裁体制は最も効率的な統治システム》だと絶賛する文章まで残していたことが判明したのだ。
さらに彼は、女性のスポーツ参加に反対する女性差別主義者で、政情不安のアジアから美術品などを不当な安価で獲得する植民地主義者で、黒人の人権運動も弾圧した人種差別主義者だということまで判明した。
メキシコ五輪の表彰式で黒人差別反対の意思表示をした選手たちをオリンピックから追放したのも彼だったし、ミュンヘン五輪のテロで死亡したユダヤ人選手に対して追悼の意を示さなかったとの非難もある(以上『現代スポーツ評論43号』特集「スポーツと人種問題の現在」より)
ブランデージだけでなくサマランチIOC会長も、ヒトラー・ナチスの友党であるスペインの右翼ファランヘ党の党員だった。
またオリンピック生みの親のクーベルタン男爵も女性がスポーツを行うことには大反対。射撃を愛し、五輪の根本理念である「スポーツによる平和」とは正反対としか思えない「鳩撃ち」まで五輪の正式種目に採用していた。
もっとも、考え方は時代で変化する。織田信長が民主主義者でないと非難することはできないだろう。
が、ナチス五輪での大失敗(ボイコットしなかったことでナチスに自信を与え、第二次大戦とユダヤ民族の大量虐殺の悲惨を招いてしまったこと)を反省すれば、とにかく北京冬季五輪を開催して成功に……と企図したとしか思えない電話会談のアイデアなど出て来なかったずだ。
一人の女性テニス選手の問題だけでなく、ウイグル、チベット、内モンゴル、香港……と、オリンピックの理念に反すると思われる中国の「反人権的政策」に対して、IOCは今こそ世界の先頭に立ち、五輪の開催には人権問題の解決が必要だと中国に主張し、圧力をかけなければならないはずだが……。
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