コラム「スポーツ編」
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掲載日2004-02-16 
このコラムは、1999年『メンズクラブ』4月号に寄稿した原稿に手を加えたものです。5年前から・・・いや、何十年も前から、日本のプロ野球は、まったく変わっておりまへんなあ・・・。
ニッポン・プロ野球の体質を改善する方法
 日本のプロ野球は、このままでいいのだろうか?
 昨シーズン(1998年)は、ドラフト制度の不備からスカウトの自殺という事件まで起き、スパイ疑惑まで飛び出した。にもかかわらず、喉元すぎて熱さを忘れたのか、コミッショナーも各球団のオーナーも、そしてメディアも、すべて何事もなかったかのように新たなシーズンを迎えている。そして今年も、どこが勝った、どこが負けたと騒ぐうちに1年が過ぎる。

 考えてみれば、これは、相当に「虚しい営み」というほかない。
 プロ野球が誕生して60余年。毎年同じことが繰り返されるだけで、日本のプロ野球のレベルが上がったか否かすらわからない。人気球団のみが利益を独占し、巨額の赤字を抱える球団は親会社の宣伝で満足し、組織の拡大も発展もない。10年後の目標も、50年後の青写真もない。成長もなければ、変化もない。

 アメリカ大リーグは、そうではない。1960年に2リーグ16球団だった組織は、70年に2リーグ各2地域(東西)24球団になり、現在では2リーグ各3地域(東中西)30球団に増え、下部組織(AAA・AA・A・インデペンデントの各リーグ)も加えた合計300以上の球団が、巨額の金を動かして活発な活動を展開し、本拠地各都市のシンボルとして地域住民に愛されている。
 いったい、この「差」は何なんだ?

 野茂が、大リーグの魅力に惹かれて雄飛したのと同様、球団職員としてアメリカに渡り、現在モントリオール・エクスポスのフロントの一員として活躍しているタック川本氏に、その疑問を正面からぶつけてみた。
「それは、野球に携わっている人々の意識の違いですよ」
 彼は、開口一番、こういった。

「日本のプロ野球では、新しく監督になった人物に『どんな野球をします?』と質問するでしょう。アメリカではそういう質問はありえません。なぜなら、どんな野球をするか、どんなチームにするかは、球団の方針として、フロントが決めているからです。どうしてチームを強くするか、どういう補強をするか、ということから、どういうサービスで観客を獲得し、満足させるか、どういう地域活動をするか、ということまで、すべて球団フロントが綿密な計画を立てるのです。そこから、現場の監督は誰がいいか、ということも決定される。日本のプロ野球の監督は、まるで中小企業の社長のように、選手補強からファン・サービスまで何もかもしますが、アメリカでは、チームは球団フロントが作るのです。要は、日本の球団フロントが野球のプロにならなければならないということでしょう」

 たしかに、そのとおり。日本の球団フロントは親会社からの「天下り」社員が多く、チームをどうするか、野球をどうするかという発想はなく、球団利益をどうあげるか、と考えるならまだしも、親会社の赤字をどれだけ減らすか、ということしか眼中にないのだ。
「選手が野球の技術を習得するために練習をするように、フロント職員も野球ビジネスを学び、自分のチームの野球、球団の方針を打ち出すべきです」

 それは、当然のことだ。
 プロ野球は、巨額のカネを動かし、多くの人々を動かす素晴らしいビジネスでもあるのだから、銀行マンが世界の金融マーケットを学び、新たな経営戦略を打ち出すように、フロント職員も、野球を学び、研究し、野球ビジネス戦略を打ち出さなければならない。そうしなければ会社(球団)は発展するわけがない。

「ただし、各球団が自分勝手にどんな方針でも打ち出していいわけではありません。一球団といえども、球界全体の発展を考えなければならない。大リーグは、非常に面白いことに、全体として非アメリカ的ともいえる社会主義的な運営がされているのです。リーグに属する球団は『運命共同体』であり、自分の球団だけの発展はありえない、リーグ全体の発展があって、はじめて各球団も利益が伸びるという発想です。その結果取り入れられたのが『レベニュー・シェアリング・システム』で、それは黒字球団が利益の一部を赤字球団に振り分ける制度です」

 もちろんそれには、各球団のフロントだけではなく、「コミッショナーやリーグ会長といった球界トップの強力なリーダーシップが必要」なのはいうまでもない。が、そうして大都市の球団も中小都市の球団も「機会の平等」が保証されるなかで競争が行われ、全体のマーケットが拡大し、さらなる発展が・・・というわけなのだ。

「組織が拡大すれば、選手の意識も変わります。日本式の1軍2軍という言い方をするなら、エクスポスの組織は8軍まであり、大リーグ各球団はどこもそれくらいの下部組織を抱えています。そこから厚い選手層が維持できると同時に、質の高い選手を育てることができます。いま大リーガーになるには、平均で5年4か月かかるといわれています。それだけマイナーで苦労を重ねた選手は、技術的にはもちろん、意識のうえでも非常に高いプライドを持ち、大リーガーになったことを誇りに思い、言動にも風格が出てきます。そしてファンも大リーガーを尊敬するようになり、野球というスポーツと球団に対しても敬意を抱くようになる。ですから日本のプロ野球も下部組織(二軍)を広げる努力、選手層を厚くする努力をすべきです。そのためには、外国人選手枠というものを一度撤廃して選手の競争を激化させるのも一案でしょう。大リーガーでも、約20%が外国籍ですからね。それに二軍の試合を多くするべきです。アメリカでは、マイナー3Aでも年間150試合はしますからね」

 そうなのだ。高校を卒業したばかりの選手が、すぐにエースと呼ばれたりするのは、日本のプロ野球のレベルの低さの証明でしかない。プロ野球の将来を展望するならば、二軍以下の下部組織にこそ、目を向けなければならないのだ。
 しかし、フロントの意識改革も、球界トップのリーダーシップも、下部組織の改革・・・も、一朝一夕にはできないことだらけ。劇薬でもいいから、カンフル剤となる改革案はないのか?

「アメリカから選手やチームを日本へ招くだけでなく、日本のプロ野球のオールスター・チームがアメリカへ渡り、大リーガーと試合をする、というのはどうですか。その経験は大きな刺激になり、日本のプロ野球の発展につながりますよ」
 それは、名案! ジャパン・マネーで「アメリカ・ツアー・チーム」を呼ぶのでは、なんのプラスにもならない。アメリカ(の観客の前)で試合をすれば、日本の選手の実力もわかる。球界のトップ、リーグや球団の職員も、大リーグ関係者との交流を通して、アメリカの野球運営の現場や、タフ・ネゴシエーション(交渉術)に触れることもできる。「日本のコミッショナーや球団の体質では、海外で通用しない」こともわかるだろう。

 それに、何より素晴らしいのは、選手たちが、歳をとって引退してからではなく、若い現役時代に本場の本物のベースボールに触れられることだ。
 Jリーグ・チェアマンの川淵三郎氏は、選手時代にドイツに渡って試合をし、ブンデス・リーガーの運営法を知り、施設の素晴らしさを目の当りにして、「日本にも同じようなスポーツ・クラブを」という「夢」を抱いた。その「夢」を実現しようという意志が、Jリーグの運営に生かされている。そのため、多くの困難に直面しながらも、「日本の現実的妥協」(チームに企業名を入れたり、親会社の言いなりになること)を拒否し、Jリーグは「ブンデス・リーガーのような地域住民とサッカー選手主体のクラブ作り」を目指しているのだ。

 多くのプロ野球選手が、若いうちに大リーグの素晴らしさに直接触れれば、そのなかから「プロ野球界の川淵三郎」も、いずれ生まれ出るかもしれない。
「大リーグが完璧に素晴らしい組織だという気はありません。問題点も様々あります。が、問題点をそのままにせず、野球界全体を発展させようという意志を持ち、日々改革のために動き続けている点で、大リーグは日本のプロ野球よりもはるかに優れた組織といえます」
 しかし、それほど素晴らしい組織の存在を知りながら、どうして日本のプロ野球は、「動こう」としないのか?

「いろいろ理由はあるでしょうが、メディアの問題は大きいですよね。日本のメディアは、西武の松坂は視聴率がとれる、新聞が売れる、という発想でしか野球を見ていません。メディアが正しい目で現在のプロ野球界を批判しなければ・・・」
 そうなのだ。日本のメディアは、スポーツ・ジャーナリズムを放棄し、目先の話題、目先の利益ばかり追っている。いや、それどころか、みずから球団を持ち、みずからのメディアを用いてそれを宣伝し、自分のチームだけ人気が出れば(利益をあげれば)それでいい、という行動に出ているのだ。

「そういうメディアの姿勢は、日本のプロ野球のマーケットを小さくするばかりで、やがて、日本のプロ野球の崩壊を招くかもしれません。おそらく今後、テレビの多チャンネル時代を迎え、アメリカ大リーグの試合は、より多く放映されるようになるでしょう。そうなるとファンの野球に対する目がさらに肥え、大リーガーをめざし、大リーガーになる日本人選手も増え、日本人は日本のプロ野球に背を向けるようになるのでは・・・」
 それどころか、日本のメディアは大リーグ野球中継で儲ければいい、と思っているのかもしれない。アメリカ大リーグも、「ワールド・ワイド・ドラフト」という構想を持ち、「アメリカ・カナダを大リーグ、ラテン・アメリカ諸国を3A、アジア(勧告、台湾、日本)を2A、ヨーロッパ諸国を1Aに位置づけ、世界のベースボールを組織化し、全地球を舞台にベースボール・ビジネスを展開しようという世界戦略を持っている」から、日本の野球ファンの目が大リーグに向くのは歓迎すべき事態に違いない。

 が、日本のプロ野球は、どうなる? 
 大リーグの下部組織となり、「野球文化」が育たないまま終わるのか?
「未来のことは誰にも断言できませんが、アメリカ大リーグがそういう世界戦略で動いていることは事実です。だから、日本のプロ野球ファンは、ストライキをしてみてはどうでしょう?」
 ストライキ?
「野球場へ行かないこと。本当に野球を愛するファンなら、現在のプロ野球は改革されなければ、と思っているはずです。が、プロ球界関係者は動かない。でも、観客が来ないとなると、いかに鈍感な関係者でも動かざるを得なくなります」

 そうなのだ! 野球を愛する人々なら、この逆説が理解できるはずだ。
 いま、日本のプロ野球の体質が改善され、真に野球を愛する人々によって運営されるようにならなければ、将来、日本の野球文化は完全に死滅するのだから・・・。

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