――近鉄とオリックスの合併問題に端を発して、さらなるパ・チームの合併と1リーグへの動きが進んだかと思ったら、阪神が「1リーグ化反対」の意志を鮮明にしました。この動きを、どうとらえてますか?
松原 ちょっと考えたらわかるだろうという程度の問題に、ようやく気づいてくれたか、というのが正直な感想ですね(苦笑)。だって、1リーグになったら巨人と試合ができてすべての球団がすべて黒字になるという幻想がはびこっていて、堤(西武)オーナーもそういってますけど、その根拠はどこにもない。古田選手会長が、先の労使交渉の席で「合併で経営がよくなるという根拠を示してほしい」といったら、「赤字の2球団が一緒になるんだから赤字は半分になるだろう」と、そんな大雑把な回答しか返ってこない(笑)。
――1リーグ化を唱えても、そのあとのシミュレーションはしてないんですね。
松原 マーケティングもしていない。ナベツネさん(渡邉巨人オーナー)にも堤さんにもヴィジョンはなく、1リーグになれば何とかなると思ってるだけ。でも、セ・リーグの各球団は収入が減るのは明らかで、共倒れになる危険性が高い。阪神の野崎社長は、やっとその程度のことに気づいたということですよ。
(中略)
――選手会としては、合併問題の1年間の凍結を主張していますね。
松原 そうです。今シーズンと来シーズンは現状の2リーグのままで、その間に問題解決の手段を探るということです。近鉄のネーミングライツ(球団名の売却)がダメで、他の企業による売却もダメで、合併だけは承認という理由も根拠も、まだ示されてないのですよ。それらの可能性を1年かけて探って、プロ野球界全体が最も発展する方向を打ち出さないと。
――阪神が2リーグ制を守ろうとするなら、巨人がパ・リーグへ移るという声もあがっているようですが・・・。
松原 そもそも1リーグ制というのは、巨人と試合をしたいパ球団の願望だったわけですけど、最近は巨人人気と巨人戦のTV視聴率の低迷で、西武戦やダイエー戦という新しいカードを組みたい巨人にとっての課題になってきています。それに中日新聞の強い名古屋やマーケットの固定している関西よりも、読売新聞は北海道や九州での販促活動に力を入れたい。そのことを考えると、ナベツネさんが「我々にも考えがある」といった中味が「巨人のパ・リーグ移行」だと考えられなくもないですね。
――そこでセ・リーグからの参加も募れば、新リーグということになる。
松原 そんな勝手なことは許されないでしょう。それは野球協約を踏みにじって飛び出すことですから罰則の対象になります。100億円単位の罰金を支払ってでもリーグを出るのですかと他のセ球団が結束すれば、何も怖れることはありません。
――しかし7月7日のオーナー会議の後、堤オーナーはさらにもうひとつ合併をして1リーグにと大見得を切ったわけです。それが、やっぱりできませんでした、では済まないでしょう。
松原 問題は西武とロッテの関係ですね。日本ハムは北海道で上手く運営できはじめてますし、ダイエーも福岡で地元に根ざした活動ができてます。ロッテは企業のブランド・イメージさえ傷つかないのなら、いつでも球団を手放したいと考えていた会社ですが、西武からいいだしたなら何とか有利に合併交渉を運ぼうとするでしょうし、なかなかまとまらないと思いますが・・・。
――堤さんはアマ球界のドンである山本英一郎氏とも何度か会っているようで、明らかに社会人野球や都市対抗野球大会も含めた球界の再編を狙ってますね。
松原 堤さんはプリンスホテルの野球チームを潰した人ですよ(苦笑)。
――それにアイスホッケーでも、自分の会社で2チームも所有してタニマチのように楽しむだけで、市民クラブを助けることもなく、新しいビジネス・モデルを提示できないまま縮小してしまった。
松原 三軍制とかいって、いくら裾野を広げようとしても、頂点のプロ野球チームの数が少なくなっては球界全体の発展などありえませんよ。
――確かにその通りで、都市対抗野球など観客がまったく入らないから、出場チームには1試合につき3千万円の出費が強いられてます。チケットを買わされて応援団を動員させられる。優勝するには5試合で1億5千万円かかると、シダックスの野村監督もぼやいていました。人件費も加えて年間数十億円の下部チームを維持するのは難しいですね。
松原 三軍制になって合計30チームという声も出ましたけど、下部組織が充実するのは歓迎ですよ。でも、どうしてトップを12チームから10チームにする必要があるのですか。そもそも近鉄が40億円の赤字に耐えられなくなったというけれど、それが本当なのかどうかもわからない。親会社の赤字が球団にまわされてるのではないか・・・。
――それはライブドアの堀江社長もいってました(前号でのインタヴュー参照)。どんなふうにシミュレーションしても、そんな莫大な赤字が出るわけがないと。
松原 ですから我々選手会は、これを機会にプロ野球の抜本的な構造改革を行いたいわけです。
――近鉄とオリックスの合併が白紙に戻されて、来年も今年と同様セパ12球団2リーグ制でペナントレースが行われることになっても、問題の解決にはならないですよね。
松原 そのとおりです。巨人中心というか、そもそも巨人に頼らなければ運営できないような構造そのものを改革する。
――どうやって?
松原 具体的には、フリーエージェントの選手を獲得するときの保証金の撤廃、選手の年俸総額が一定限度を超えた場合の贅沢税(ラグジャリー・タックス)の導入、それに放送権料の一括管理と平等分配です。NHKはアメリカ大リーグの放送権料に200億円も支払ったらしいですけど、その半分でも日本のプロ野球のほうにまわしてほしいですね。そうしていろんなカードの試合が放送されたら、球団の人気格差も縮まる方向に動くでしょうし、球界全体が潤うはずです。
――現在の球団側の発表を信じるとして、セの黒字が100億円、パの赤字が120億円。合計20億円の赤字なら、各球団が独立して各メインスポンサーが2億円ずつ出せば、球界全体の健全経営は可能ですよね。
松原 まったくそのとおりです。さらに球団数を増やすことだって、まだまだ可能です。ところが、巨人中心のプロ野球という構造にメスを入れようとしないから、巨人とくっつこうとする動きになって、マーケットが縮小する。近鉄との合併を決めたオリックスは、来年の春のオープン戦で巨人との対戦を何試合か組んでもらえるようになったそうですよ。それが事実ならば、その何試合かだけで、キャンプの費用くらい出るんですからね。どの球団も、構造改革という根本的な、まあ、かなり労力もかかる仕事と取り組もうとせずに、巨人になびこうとしてしまうわけです。
――しかし、いまいわれた具体的な構造改革を進めるためには、現在の意志決定システムも変える必要がありますね。
松原 もちろんそうです。オーナー会議と実行委員会だけですべての物事を決定するのではなく、我々選手会も意志決定に参加できるシステムが必要です。今回の合併問題にしても、これは選手の利害に関わる問題で、そういう場合は選手も含めた特別委員会を開催しなければならない、と野球協約には書かれています。でも、それを開催してもらえない。
(中略)
――そこで9月8日のオーナー会議で、どんな方向が打ち出されるのか。合併・縮小・1リーグ化、あるいは新リーグとなれば、当然ストライキも辞さず、となりますね。
松原 それはさまざまな状況を考えなければなりませんが、ストを打つにしても「合併反対」ではないわけです。構造改革とシステム改革が目的で、ファンのためにプレイをしているのと同様、ファンのためにストライキを行うというメッセージがファンに届かなければなりません。じっさい最近5年間の選手会の活動は、すべてプロ野球界の構造改革に関わることばかりで、選手の要求運動とか待遇改善闘争は一切やってないのですよ。ゲームやグッズに関する選手の肖像権の確立にしても、選手の収入よりも球団の収入を考えてのことです。なのに球団側は、経営のことを考えずに、選手にもカネを出しておけば・・・という程度にしか考えてないのは残念ですが(苦笑)。
――だったら、試合の代わりにサイン会を行うようなストもあり得るかも・・・。
松原 ただ単なるストライキではなく、いろんな方法が考えられるでしょうね。全選手が来シーズンの契約更改にサインしない、というようなファンの楽しみを奪わない闘い方というのもあるでしょうね。
――私は、特別委員会が開催されないことだけでもストライキを行うべきだと思います。MLBの2度にわたる長期ストライキ(1972年と94年)も、当時はファンから非難の声もあがり、総観客数の減少にもつながってしまいましたが、経営者側のやる気を刺激し、結果的には、選手とともに新たな展開を考えることによって大きな発展につながったわけですから。それに各メディアの世論調査では、70%以上のファンが選手会のストライキを支持している、というデータもあります。
松原 メディアの人は、ストを打つのか、いつ打つのか、ということばかり訊いてくるので、正直いってうんざりしているところがあって(苦笑)、それよりも、野球界の構造的な問題を浮き彫りにするほうが大事なわけですからね。
(後略) |