元プロ野球のスーパースター清原和博が、覚醒剤取締法違反で逮捕された。
PL学園高校時代に甲子園出場5回、通算13本塁打の大記録を持つ彼の、あまりに激しい凋落ぶりに、マスメディアは大騒ぎした。
毎年約1万5千人が逮捕検挙されている麻薬・覚醒剤等事犯のなかで、清原を含めて過去に5人というプロ野球界の逮捕者数は、けっして多いとは言えない。が、その衝撃の大きさは強烈で、テレビのワイドショウは、清原の覚醒剤の入手先等を詳しく報じ続けた。
なかでも巨人で清原と一緒にプレイしたこともあり(98〜01年)、06年に覚醒剤取締法違反で逮捕、懲役1年6か月(執行猶予3年)の刑を受けた野村貴仁元投手の発言はショッキングなもので、清原は現役選手時代から覚醒剤に手を出し、練習中のグラウンドやベンチのなかでも、それを手に入れてくれるよう要求していたという。
このようなプロ野球選手の薬物依存は、ルーツを辿るとアメリカ・メジャーリーグ(MLB)での出来事に遡る。
MLBでは80年代に選手の麻薬の使用が表面化。通算335本塁打のストロベリー(メッツ他)、通算379本塁打のセペダ(ジャイアンツ他)、通算162本塁打のヘルナンデス(カージナルス他)、通算194勝投手のグッデンなど、元スター選手が相次いでコカイン等の使用で逮捕された。
それに対して当時のMLBコミッショナーのピーター・ユベロス(元ロス五輪組織委員長)は徹底した現役選手の調査を開始。
薬物使用が発覚した選手の罪の大きさに応じて合計22人の選手を処分。出場停止(60日〜1年間)や年俸の10パーセントの寄付、奉仕活動への参加などの罰を科したうえ、再犯や他の選手への波及を阻止するため、抜き打ちの尿検査の実施など、徹底した麻薬対策と復帰のプログラムを打ち出した。
とはいえ、それでMLBが麻薬撲滅に成功したとは言い難く、01年にニューヨーク・メッツでプレイした小宮山悟氏(元ロッテ投手)から、「ロッカーで興奮剤を服んで目がぶっ飛んでる投手もいた」という話を聞いたこともある。
清原に覚醒剤を渡したと言う野村元投手も、02年に1年間MLBのブリュワーズでプレイした経験を持ち、それ以前のオリックス時代(92〜97年)には同じチームの元MLB外国人選手から、グリーニーと呼ばれるアンフェタミン系の興奮剤(かつてヒロポンと呼ばれたメタアンフェタミン系と似た覚醒剤)を使用し続けていたと証言している。
プロ野球選手が麻薬に手を出すきっかけは様々だが、MLBでは成績が残せずマイナーに落ちると、収入が一気に10分の1、100分の1にも落ち、選手たちは、「圧力釜の中にいるような」とも表現される強烈なプレッシャーを感じてプレーしている。
そのため、そんなプレッシャーから解放されたい気持ちだったり、野村元投手が口にしたように、当初はケガの痛みを忘れるため……といった理由で、クスリに手を出す。が、そのうち中毒症状(依存症)に陥ってしまうという。
清原も西武から巨人に移籍したあと、度重なるケガと不振に悩まされ、MLBほどの「マイナー落ちと減俸」の恐怖はなかったにしても、あまりの不振に巨人の応援団から声援を中止されるなど、肉体的にも精神的にも相当にダメージを受けた(と自伝にも書いている)。
おまけに巨人は、プロ入り時の「複雑な思い」が存在する球団でもある(ドラフトで巨人から指名されると信じていた清原だったが、巨人は一転してPL学園の同僚で早大進学を表明していた桑田投手を指名。巨人にも桑田にも「裏切られた」という思いが、清原にはトラウマとして残ったのは想像に難くない)。
西武時代には、東尾をはじめ、石毛、中尾、辻……等々、優秀な先輩選手も多かったうえ、「球界の寝業師」などと評された根本睦夫球団管理部長(元監督)や、堤西武球団オーナー相手に球団経営を指南した坂井保之球団代表など、清原を指導できる人物も多かった(堤オーナーだけが甘かったという声もあるが……)。
ところが巨人移籍後は、「番長」と持ちあげられ、彼の行動や態度を制御できるチームメイトもいなくなり、球団フロントのメンバーも、読売本社からの出向社員のため、清原を指導できる人物が存在しなくなったという。
そんななかで、肉体的精神的苦痛から逃れようとした清原は、一人で悩み、安易な逃避方法に手を出してしまった、と言えなくもない。
そして清原にオリックス入団への道を開いてくれた仰木彬前監督(同球団シニア・アドバイザー)も、清原の入団直前に肺癌で急死(05年12月)。失意の清原はユニフォームを脱いだあとも立ち直れないまま……などと書くのは、犯罪者に対して相当に甘い評価と言われるかもしれない。しかし…… 。
プロ野球界は07年になってようやくドーピング検査を開始。抜き打ちの尿検査も行うようになった。それは選手の薬物使用に対する歯止めとなるだろう。が、同時に薬物を使用してしまった選手に対する更正と復帰への道筋も考えるべきではないだろうか。
親会社の利益を優先して選手を使い捨てるのでなく、大いにプロ野球を盛りあげてくれた元選手のセカンドライフまで考えて初めて、アスリート・ファーストのスポーツ組織と言えるはず。それがプロ野球の恒久的人気にも繋がるはずだが……。 |