ある野球解説者に、「この本、面白いよ」と薦めたところが、「野村さんの本なら、もういいですよ」と拒まれた。
気持ちはわかる。何十冊も(百冊以上?)出版された野村克也氏の本は少々食傷気味とも思える。
が、この本は別格。野球好きには興味の尽きない面白さに満ちた素晴らしい一冊だ。
本書の特徴は箇条書きの多いこと。たとえば第2章「野球とは」では、野球が@頭のスポーツA失敗のスポーツB「攻め」と「守り」で成立するC勝敗の7割以上をバッテリーが握るD意外性のスポーツE確率のスポーツ――の6項目に分けられ、解説されている。
以下、「投手論」「捕手論」「打者論」「走塁・作戦論」「守備論」の各章でも、打者のタイプは4項目、データ収集は10項目、牽制球の種類は6項目、捕手の配球は12項目、さらに内角球の使い方は4項目……と、野球のあらゆるプレイが分類して(分けて)解説されている。
「分ける」ことは「分かる」ことに他ならない。
バッターの作業は@塁に出るA走者を進めるB走者を返す――の3種類と書かれると、腑に落ちる。そして打者は3種類どれかをどうすれば実現できるかを考え、投手と捕手はそれを阻止する方法を考える。
このように明確に「分けて」考えると、野球選手は自分の行うべきことが「分かり」、野球ファンは野球の世界がどのような要素で成り立っているのかが「分かる」。そして野球の魅力を、より深く理解でき、より一層楽しめるようになるのだ。
第1章のタイトル「野球と人生」という文字を見たときは、またまた人生論か、と思った。が、そうではなかった。
著者は人生論を説くのではなく、野球選手の人生そのものを解説している。つまり「人生のなかに野球がある」のではなく「野球のなかにこそ人生がある」と考え、本書で野球のすべてを書き尽くしたのだ。
宮本武蔵が剣術のすべてを「五輪之書」にまとめ、それが人生論としても読まれるように、野村克也の野球論こそ人生論(素晴らしい人生の紹介)につながっているのだ。
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註)野球のなかに人生がある……という言葉は、アメリカのベースボール・ライターであるロジャー・エンジェルの言葉をパクらせていただきました。 |