2020年7月20日、ニューヨークに本部を置く国際的NGO(非政府組織)のHRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)が、オンラインで記者会見を開き、日本の学校の運動部活動における体罰問題に関する調査報告書『数えきれないほど叩かれて〜日本のスポーツにおける子供の虐待』を発表した。
HRWは、戦争犯罪の告発や地雷禁止キャンペーンなど、多岐にわたる人権問題を採りあげている団体だが、そのレポートを読むと、数年前からマスコミも大々的に取りあげた体罰が、今も陰惨に続けられていることがわかり、唖然とするほかなかった。
顔面から血が流れ続けても殴られ続けた女子バスケットボール選手の告白や、スイミングキャップの紐で首を絞められてプールの水中に押し込まれた水球選手。
さらに諸外国ではほとんど発生していない中学高校での柔道の稽古中の死亡事故が、日本では1983年以降121件も起きているのだ(1年平均3人以上の生徒が亡くなっている!)。
もちろんJOC(日本オリンピック委員会)も、調査をしていないわけではなく、加盟スポーツ団体から回答のあった約2千人のアスリートのうち「11・5%の選手が暴力を含むパワハラやセクハラを受けた」との調査報告を出している。
また全国大学体育連合も約4千人の学生に対する調査で「20・5%の学生が体罰経験があると回答」したという。
JOCやスポーツ庁も、被害を受けたアスリートの相談窓口を設けるなど、対策に取り組んではいるのだが、HRWの記者会見で注目すべきは日本のスポーツ界を「Lile Military(軍隊的)」と表現したことだった。
その言葉の意味を日本のスポーツ関係者だけでなく、多くの日本人がどこまで的確に理解しているのか?それこそが大問題!と言えるだろう。
たとえば高校野球。球児たちの丸刈り頭も、選手宣誓の時の直立不動の姿勢も、顎を突き出し、大声で叫ぶように声を張りあげることも、それらはすべて「軍隊的」と言うほかない行為と言える。
また、今年の夏の甲子園で行われた交流大会では実施されなかったが、毎年行われる開会式での手足を揃えての閲兵式のような入場行進(分列行進)は、まさに軍隊的行為で、実際この行進は、戦前の軍国主義化する日本社会にあって、野球というアメリカ生まれのスポーツに対する非難を逃れる目的で、世論や戦前の帝国陸軍に阿(おもね)て第3回大会(大正6年)から実施されたものらしい。
それらの「軍隊的行為」が、多くの人々から「高校生らしさ」と評価されもしているのだが、旧帝国陸軍で上官が下級兵士を「指導する」のにビンタやゲンコツという「暴力」が用い、戦後になって、その影響から日本のスポーツ界に「体罰」という名の暴力が蔓延したことも事実である。
ならば、日本の学校スポーツ界からすべての体罰(暴力)を根絶するには、あらゆる「軍隊的行為」(非スポーツ的行為)を取り除くことこそ必要なはずで、朝日新聞社や毎日新聞社は、高校野球大会の主催者である前に、社会正義を貫くジャーナリズムを担う新聞社として、スポーツにおける一切の「軍隊的行為」取り除くよう働きかけるべきだろう。
丸刈り頭も、分列行進も、大声で叫ぶ宣誓も、そのルーツがわかれば、スポーツとして継続すべきでないことは明らかだと思えるのだが……。
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