新型コロナウイルスの変異株による感染拡大が収まらず、はたして今夏の東京オリンピック・パラリンピックは開催できるのか? と誰もが心配するところだ
が、それを考える前に、東京オリンピック・パラリンピックは何のために開催するのか? という問題を考えておきたい。
その問いに、あなたはどう答えますか? 正しく答えられる自信はありますか?
3・11東日本大震災からの復興を世界に示すため……。新型コロナに打ち勝った証として……。
それらの言葉は小池百合子東京都知事や菅義偉総理が口にした「東京五輪を開催する理由」だが、東京五輪の開催が企てられ始めたのは、3・11や新型コロナよりもずっと前のこと。20世紀から21世紀に移った頃のことだった。
前回1964年の東京オリンピックから半世紀近くを迎えたとき、JOC(日本オリンピック委員会)の人たちのあいだで、2度目の東京五輪開催の話題が口に出始めた。
名古屋が立候補してソウルに敗れ、大阪が北京に敗れたあと、やはり大都市の東京で2度目の大会を……という声が高まったのだ。
そして、その声に待ってましたとばかりに飛び付いたのが国会のスポーツ議員連盟の面々だった。
ちょうどその頃から、前回の東京五輪のときに作られたスポーツ振興法が、身障者スポーツもプロスポーツも無視した時代遅れのものになっており、新たなス
ポーツ基本法の制定と、スポーツ政策を一元的に取り扱うスポーツ庁の創設が計画されていたのだ。
プロスポーツは経産省、アマチュア・スポーツと体育教育は文科省、身障者スポーツは厚労省、スタジアムの建設等は国交省と分かれていたスポーツ行政を統一し、約5兆円規模と言われていたスポーツ産業をアメリカやEU(ヨーロッパ連合)の半分近く(約15兆円)にまで増やす計画を推進するのが目的だった。
が、折しも行財政改革が唱えられ、省庁の新設は難しく、しかもスポーツの産業化という企図は、学校体育がスポーツの中心と思う人の多い世の中では理解されにくかった。
そこで、2度目のオリンピックを東京に招致することができれば、それらが一気に可能になるに違いない……ということで始まったのが東京オリンピック・パラリンピックの招致開催だったのだ。
そしてスポーツ基本法が制定され(11年)、オリパラ招致にも成功(13年)。スポーツ庁も新設され(15年)、スポーツ産業の規模も、現在は(新型コロナの影響で伸び悩んでいるとは言え)8.5兆円まで拡大。
体育教育が中心だったスポーツ界も、日本体育協会が日本スポーツ協会と改名(18年)。体育の日もスポーツの日と改められ、国民体育大会も23年からは国民スポーツ大会と変えられることになった。
つまり、指示され命令されて動く体育教育中心の日本社会が、自主的自発的に参加するスポーツ的な社会へと変化する基礎ができあがったわけで、言わば東京オリンピック・パラリンピックの目的は既に達成できたとも言えるのだ。
あとはそのような新しい日本社会と新しいスポーツ界と新しい社会の誕生を祝い、さらなる発展を願って世界中の人々を招いて「祭典」を開催するだけ……だったのだが、新型コロナ・ウイルスの猛威と蔓延による国民の安全と健康を考えるなら、目的は既に達成したのだから「祭典」は中止するのが良策と言えるはずだ。
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