アメリカのサブプライム・ローンに端を発した「世界金融不安」は、「百年に一度の未曾有の事態」で、今後の実体経済に与える影響は計り知れない、といわれている。
「百年に一度」とは、1929年のウォール街の株価暴落で始まった「世界恐慌」以来の深刻な事態ということらしい。
では、約百年前の世界恐慌のとき、スポーツ界はどうなっていたか?
アメリカのメジャーリーグは、ベーブ・ルースとルー・ゲーリッグの大活躍でヤンキースが黄金時代を迎え、「くたばれヤンキース」という言葉が流行し、戦後には、その言葉を題名にしたミュージカル映画が人気を博した。
日本では、恐慌の始まる前年1928年のアムステルダム・オリンピックで、男子三段跳びの織田幹男選手と男子水泳200m平泳ぎの鶴田義行選手が、日本人初の金メダルを獲得し、スポーツ熱が大いに盛りあがった。
そのスポーツ・ブームは、32年のロサンゼルス五輪、36年のベルリン五輪へと引き継がれ、世界恐慌や二・二六事件、さらに満州事変といった暗い世相のなかでも、国民の一服の清涼剤(あるいは社会不満のガス抜き)として存在したのだった。
そして1940年(皇紀2600年)の東京オリンピック開催に向け、さらに拡大するはずだったスポーツブームが、どのような終焉を迎えたかは、説明するまでもないだろう。
とはいえ、それらの経験からスポーツは(さらに映画や演劇などの興行も)「不況に強い」という「伝説」が生まれたのだった。
しかし今回の「世界金融恐慌」は、どうやら肥大化したスポーツ(ビジネス)界をも直撃しそうな気配だ。
2012年のロンドン五輪は選手村の宿舎の4人部屋を5〜6人部屋に縮小し、建設戸数を減らす決定を下した。2010年のサッカーW杯南アフリカ大会も、開催都市間の移動手段のインフラ整備が遅れ、開催を危ぶむ(開催国変更の)声まで出ている。
またメジャーリーグのシカゴ・カブスは、オーナーの交代に伴い売却が予定されていたが、希望価格の12億ドルでは買い手が現れず、売却中止となった(註・年が明けて、ようやく約7億ドルで買い手が付いたという)。その結果、他のメジャーリーグ球団も、資産価値の評価が下がり、銀行から借入金の返済(貸し剥がし)を迫られたり、借入金を得られなくなる(貸し渋りの)可能性が高くなり、選手の高額年俸等を見直す声も出始めている。
さらにイギリス・サッカーのプレミアリーグも、最も人気のあるマンチェスター・ユナイテッドの胸に書かれた「AIG」というマークがどうなるのか、ということも含め、土地バブルの崩壊したスペインのリーガ・エスパニョーラとともに、先行きを不安視する声が高まっている。
そんななか、逆に評価の高まっているのが2016年の五輪招致に動いている東京だ。最大のライバルのシカゴが世界の先物市場の中心であることを考えると、サブプライム・ローンの傷の最も小さい国の首都のほうが安心、と考えるIOC委員が増えているという。
はてさて、オバマ新大統領が地元開催にどれほどの力を入れるのか、この先「百年に一度の事態」がどう推移するのか、未来は誰にも読めない。が、来年10月に投票が行われ、もしも2016年東京五輪開催が決定したら、我々日本人にとって、久々の明るい話題になるのではないだろうか?
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