今年の赤星は、よく走る。といっても盗塁のことだけではない。センターの守備位置に着くとき、守備位置からベンチに戻ってくるとき、ほとんど全力疾走に近い走り方をしている。いや、金本も桧山も、今岡もアリアスも、投手を除くすべての選手が溌剌とした駆け足で、守備位置とベンチを往復している。
「そんなこと、当たり前のことやないか」と星野監督はいう。「プロやから、とか、観客が見てるから、とかいう以前に、スポーツ選手がダラダラ歩いてて、どうするんや。野球選手が大好きな野球をしてるんやから、どんなときでも走るのが当然ですよ」
― しかし、一昨年まではそうではなかった。
「そうなんや。みんなチンタラ歩いとった。こんなチームに優勝なんて無理やと思うた」
― そこで、走れと、カツを入れた?
「そんなことは、しとらんよ。いわれてするもんやないんやから」
― だったら、コーチに「走らせろ」といった?
「そんな言い方もしてない。命令はいっさいしてないよ。ただ、おれは、チンタラ歩いてるような選手は嫌いや、とはコーチに向かっていうた。見苦しいし、見ていてイライラするし、そういうのは嫌いやと。そんなチームではアカンとはいうた。コーチが何をどうしたかは知らんけど、選手がみんな、よう走るようになったことには満足してるよ」
監督はチームの青写真を描き、それをコーチ陣に伝える。どのようにしてチームをその青写真に近づけるか、その方法論はコーチ陣の役割である。いや、権限というべきか。
そういえば、星野監督がノックバットを持つ姿は見たことがない。投手のフォームを指導修正する姿も見たことがない。星野監督はコーチの権限を侵さず、監督の仕事に徹する。
フィールド・マネジャー(監督/管理者)はコーチ(指揮官/指導者)ではない。バスケやアメフットとは異なり、野球には、ヘッドコーチの上にマネジャーが必要なのだ。 |