コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-12-12

この原稿は、『スポーツ・ヤァ!』(角川書店・刊)130号(11月3日発売)に書いたものです。ちょっと早い“蔵出し”ですが、いつもこういう“蔵出し”があるわけではないので、『スポーツ・ヤァ!』を買ってくださいね(笑)。ほかにも面白い記事が満載のスポーツ誌ですから!

2005日本シリーズに見た「短い闘い」と「長い闘い」

 「日本シリーズは短期決戦というけど、やってみれば、長いですよ」
 そう語ったのは85年に西武ライオンズと闘ったミスター・タイガース掛布雅之だった。敵地で2連勝のあと甲子園に戻って2連敗。その試合前に交わした会話である。
 「シーズン中は3試合か2試合で相手が変わるから気分転換もできるけど、シリーズで同じ相手と5試合も連続して顔を合わすと、またかって気持ちでちょっとウンザリですね。だから気持ちを引き締めないと・・・」
 そして5戦目と6戦目に連勝したタイガースは、その年4勝2敗で日本一に輝いた。

 今年のタイガース・ナインは、そんな日本シリーズの「長さ」を感じることもないまま、あっという間もなく4連敗を喫した。
 4試合で幕を閉じたシリーズは5度目。いや、過去55回のシリーズのなかで5度もある、というべきだろう。ちなみに、3連敗後に4連勝という「奇蹟」も、3度も起きている。逆に「◯●◯●◯●◯」と勝敗が最後まで交互になって決着したシリーズは1度もない。

 要するに、4戦先勝のチームが優勝する「短期決戦」のシリーズでは、連勝する「勢い」や「流れ」が最も重要な要素となり、それをつかんだチーム、あるいは奪い返したチームが勝利に輝く、といえるのだ。今年のマリーンズは、見事にその「勢い」と「流れ」をつかみ、タイガースはそれを奪い返すことができなかった。

 とはいえ、その「短期決戦」の大舞台に出場するには、1年がかりで146試合を闘う「長期戦」に勝ち残らなければならない。今年日本一となった千葉ロッテマリーンズは、その「長期戦」を征するのに31年間の歳月を要した、ともいえる。
 「そうですね・・・。長かったですね。この前優勝したときは、まだ学生だったかな・・・」
 マリーンズのオーナー代行でロッテ・グループを率いる重光昭夫氏は、少しばかり苦笑いを浮かべながら、そう語った。

 彼がプロ球界に積極的に参画し始めたのは93年のJリーグ誕生の頃。その爆発的な人気に押されたプロ野球が「史上最大の危機」と騒がれたときのことだった。
 重光オーナー代行は、ドラフト制度やFA制度の改革、そしてプレイオフ制度の導入といった改革案を分厚い文書にまとめ、コミッショナーやオーナー会議の席に提出した。が、その「危機」は、長嶋茂雄氏のジャイアンツ監督復帰という一事によって(そしてJリーグのバブル人気崩壊とともに)忘れ去られ、分厚い文書はコミッショナー事務局の棚の奥で埃をかぶった。

 その後、川崎から千葉へ本拠地を移し、広岡達朗氏をGMに迎えたもののヴァレンタイン監督との確執や、伊良部の大リーグ移籍問題・・・等々、勝敗や選手の活躍よりも「内紛」ばかりが話題となり、チームは低迷しつづけた。
 「そう。いろいろありましたね。でも、そんななかでひとつの結論を得ました。それはフロント・オフィスの強化です。日本一のフロントをつくって現場のすべてを彼らに任せる。そして私は現場に口を出さない。それが私のやるべき仕事だと・・・」

 昨年、球界事情に精通し、ダイエー・ホークス(現ソフトバンク)の観客動員を伸ばした実績を持つ瀬戸山隆三氏を獲得して代表に据え、今年は浜本英輔球団社長が東京大学スポーツ・ビジネス講座で出逢った荒木重雄氏(元IT関連企業社長)を企画広報部長としてヘッドハンティングした。

 荒木氏のもとで13人のスタッフが次々と斬新なファン・サービスやイベントを企画。マリンスタジアムの周囲には屋台が建ち並び、ロックコンサートが催され、全席自由でビール半額の「ビア・スタジアム」や映画『スター・ウォーズ』のキャラクターを招いてのハリウッド・デイ、それにオーケストラや吹奏楽のコンサートなど、試合のあるときは必ずイベントが催され、平均2万人以上の観客を動員。

 バレンタイン監督や選手もファン獲得のためにスタジアム周辺のビジネス街や新築マンションの並ぶ幕張周辺に足を運び、熱心なマリーンズ・サポーターの輪を広げることに成功。チームの快進撃とともに『今なら人気でもセに勝てるんじゃない?』という少々挑発的なコピーのポスターが、真実味を伴うほど、マリンスタジアムは連日数多くのファンでにぎわった。

 「私が球団に入った1年目で何もかもがこんなにうまくいくとは・・・。できすぎですね」
 荒木企画広報部長はシリーズの勝利に少しばかり上気した顔を見せながらも、冷静な口調で語った。
 「来年はスタッフをさらに10人増やす予定で、もっと楽しいボールパークにするための新企画をいろいろ考えています。オフには球場を一部改造してVIPルームを増やし、そこを年間指定席にするだけでなく一般の観客にも売り出す予定もあります」

 ライバルはディズニーランド・・・と豪語する荒木部長は「たとえチームが勝てないときでもファンに喜んでもらえるボールパーク」を目指し、早くも来シーズンを睨んで着々と手を打つ。
 現在は千葉市を中心とした第三セクターによって運営されているマリンスタジアムも、来年からは指定管理者制度が導入され、マリーンズ球団と株式会社マリンスタジアムが合同で運営にあたり、日本で初の「官」がつくった球場を「民」が完全運営するシステムも実現する。

 そうなれば「球団の経営状況も改善され、荒木君を中心としたプロジェクト・チームも、さらにいろんなファン・サービスを実施できるはずです」と、瀬戸山球団代表はいう。そしてさらに、「日本の球界全体が活性化する動きにもつながれば、うれしいですね」

 一方のタイガースには、2007年からオフシーズンを利用した3年がかりの甲子園大改造という超ビッグ・プロジェクトが待ち受けている。
 「大正時代につくられた甲子園球場は、当初スタンドの下にプールがあり、周囲には屋台が建ち並び、いまはなくなりましたが近くには阪神パークもあり、野球と市民のスポーツクラブを中心にした総合スポーツ・レジャーセンターだったんです」
 株式会社阪神タイガース常務取締役で、電鉄本社のレジャー関連部門を担当した経験もある南信男氏は、そう語る。

 「アメリカのメジャーやマイナーリーグのエンターテインメント感覚や、いまロッテ球団がやろうとしている地域密着のボールパーク構想を、甲子園は時代に先駆けてやっていた、ともいえるのです」
 かつて甲子園球場では、但馬(兵庫県北部)から雪を運んでアルプス・スタンドを利用したスキーのジャンプ大会が開かれたり、野外大歌舞伎に10万人もの観衆が集まるなど、野球以外の催しでも話題を呼び、「甲子園の魅力」が、高校野球人気やプロ野球人気にも波及した。

 以来80余年。かつて「東洋一」といわれたスタジアムの老朽化が進むなかでチーム成績も低迷し続け、20年に一度の優勝フィーバーだけが騒がれた。が、今年は一昨年に続いてのリーグ制覇。
 野村監督、星野監督以来の「常に優勝争いに参加できるチームづくり」の長期構想も実現化しつつあるところでの甲子園大改造プロジェクトの設計図もできあがった。

 「本当は、もう少し早く手をつけなければならなかったのですが・・・、幸いタイガースには熱心なファンが多く、それに関西人気質というか、球団主導でイベントや応援を企画しても、おれたちは勝手にやりたいというファンが多いので(苦笑)、ロッテ球団がやっているほどの企画は必要ないといえます。そこで、大正時代に甲子園がつくられたときの精神を思い出し、球場の施設をきちんと整えることに全力を尽くし、あとはチームの強化に専念したいですね」

 今年、タイガース球団のフロント・スタッフは、大リーグの各地の球場を視察。赤ん坊を連れた家族連れ、女性ファン、老人や身障者といった、様々な観客に対応したボールパークのあり方を学んだという。が、アメリカのスタジアム運営者の誰もが口を揃えていった言葉は、「ファンの望むとおりにしなさい」だったという。

 「赤ん坊の授乳室やオムツの交換場所、それに野球に飽きた小さな子供の遊び場とか、いろんなアイデアや座席の配置などを学んで、そういうことを新しい甲子園球場でも取り入れようと思うのですが、最後に必ずいわれたのが、観客の望むことをやれ、ということでした。大リーグのスタジアム関係者の全員から、まるで口裏を合わせたように同じことをいわれましたね。ですから収容人数が少なくなっても、座席を大きく、通路を広くとって、ゆったり楽しんでもらえるスペースを確保したいですね」

 再来年のオフから始まる大改造では、甲子園名物の蔦を、どうしてもいったん取り除かなければならないという。そして苗木を植え、現在のように繁茂するのは工事開始から10年後の2017年。
 そのとき、はたして日本のプロ野球は、どうなっているのだろう?

 IT関連企業の進出や親会社の株の争奪戦・・・。さらに、これまで日本の球界の中心的存在だったジャイアンツの人気凋落・・・等々からリーグ再編や新リーグ創設の声もある一方、アジア・シリーズやWBCなど、プロ野球を取り巻く国際環境も大きく変化するに違いなく、誰にも予想できない「未来」ではある。
 が、確実にいえることがひとつある。

 それは、「ファンの声を聞き、それを実践する有能なフロント」の存在する球団が「勝ち残る」とうことだ。
 日本シリーズの「短期決戦」やペナントレースの「長期戦」だけでなく、ボールパークの整備や、そこを本拠地とする地域に密着したチーム作りといった10年〜数10年単位の「超長期戦」を視野に入れている球団が、シリーズやペナントを制覇する確率も高め、多くのファンやサポーターとともに日本のプロ野球界の未来をもリードするようになるに違いない。

 いまから10年ほど前、重光昭夫オーナー代行にインタヴューし、様々な「改革案」を熱心に語ってくれたとき、彼は、次のような言葉を口にしていた。
 「いまは球団の赤字があまりに大きくて、球団名から企業名をはずすと株主に訴訟されるでしょうが、いずれは赤字をなんとか縮小して、企業名をはずしたいですね。それが野球チームのあるべき姿ですから」

 そこで、「そろそろ球団名を『千葉マリーンズ』にしてもいいのではないですか?」というと、重光オーナー代行は苦笑いしながら、「う〜ん・・・」と少しばかり考え込んだあと、こう語った。
「アジア・シリーズもありますから『ロッテ』の名前がついていると中国や韓国へ向けての宣伝には有効なんですが・・・(笑)。ファンの声を聞いて考えることにします。我々は北京タイガース(中国リーグ優勝)もサポートしていますし、釜山のロッテ・ジャイアンツ(韓国リーグ5位)にも期待して、アジアの野球を盛りあげたいですね」

――日本のプロ野球も、フロントの強いチームが勝つようになりましたね。
 そういうと、重光オーナー代行は満面に笑みを浮かべた。
 「そのとおりですね。自画自賛する気はないですけど、そういわれることが、いちばん嬉しいです。でも、まだまだ、これからですから・・・」

 「長い闘い」はまだまだ続く。が、「長い闘い」を意識しているチームには、未来へ向けての夢がある。そんな夢を抱いているチームに、ファンは魅せられるのだ。

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