《大人者不失其赤子心者也》
大人(たいじん)とはその赤子(せきし)の心を失わざる者なり――孟子の言葉である。
2月1日、プロ野球のキャンプが始まり、いよいよ「新しいシーズン」が幕を開けたとき、こんな言葉が脳裏を過ぎった。
昨年、史上初のストライキにまで至った球界再編問題から、東北(仙台)に新規球団、福岡にも新球団、関西(大阪・神戸)に合併球団が生まれ、さて装いも新たになったプロ野球はどうなるのか・・・という興味もあるが、それ以上に、私が注目するのはタレントの萩本欽一さんが創設した「欽ちゃん球団・ゴールデンゴールズ」の動向である。
プロ野球と同様、2月1日から宮崎で「キャンプ・イン」したが、その前にインタヴューをさせていただいたとき、欽ちゃんは次のような言葉を口にしていた。
「野球チームって、キャンプをするんですよね。キャンプで一番楽しいことって、何といってもキャンプ・ファイヤーですからね。宮崎の浜辺に木を組んで、火をつけて、みんなで歌を歌いたいですね。♪燃〜えろよ、燃えろ〜よ〜って・・・」
私は、思わず吹き出してしまった。が、同時に、なるほど・・・とも思った。
なるほど「キャンプ」とは本来そういうもののはずである。野球の世界では、チームの「春の練習」のことを昔から「スプリング・キャンプ」と呼んでいるから、「キャンプ」とは「合宿練習」のことなのだ、と信じ込むのは、言葉は悪いが、ただの猿知恵である。
欽ちゃんの素直な発想は、もちろんキャンプだけに止まらない。チームには女性選手を入団させた。「なんで女性の野球選手がいないの? 女性が入るほうが、男だけでやるより、ずっと楽しいでしょ」というわけだ。
都市対抗野球の全国大会(東京ドーム)への出場を目指すらしいが、女性選手では実力的に無理では・・・という懸念に対しては、「野球で一番面白いのは逆転ですからね。女性投手もほしい。相手に先制点を奪われたら、さあ、逆転だって、盛りあがるじゃないですか」と、ニコニコ笑う。
もっと凄いのは、都市対抗を目指す「アマチュア・チーム」なのに、ヘッドコーチに元ジャイアンツの鹿取義隆さん、主力打者として元ブルーウェーブの副島孔太選手が加わり、さらに多くのプロ野球OBや現役プロ野球選手が応援や指導に名乗りをあげていることだ。アマチュア規定違反では? と訊くと、欽ちゃんは首を傾げてこういった。
「プロって、お客さんを呼べる人のことでしょ。アマチュアって、お客さんを呼べない人のことですよね。その区別は、お客さんが決めるのであって、お客さん以外の誰が決めるものでもないはずですよね・・・」
ここに至って「欽ちゃん球団」は、意図的か否かはさておき、プロ野球界のどんな新しい動きよりも斬新な意味を有する「革命的集団」となりうるように思えるのである。
昨年一気に噴出した日本球界の諸問題。その根源にはプロとアマの対立がある。どんな組織も、爛熟し崩壊するのは「内部」からであり、それが復活し蘇るのは「外部」の力が働いたときである。その意味で「欽ちゃん球団」は侮れない。彼は「赤子の心」を失ってないのだから。 |