掲載日2003-10-20 |
日本のスポーツ・メディア (2003年4月共同通信配信)
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松井の放った満塁弾で大リーグへの注目度はさらに急上昇。テレビは連日アメリカ野球を中継し、スポーツ紙や一般紙の報道も、日本のプロ野球以上に大きな紙面をメジャーに割きはじめた。
サッカーも中田や中村の活躍するセリエAをはじめ、イギリスのプレミア・リーグ、スペインのリーガ・エスパニョーラなど、欧州プロリーグに関する報道が増加した。
メディアも企業であるからには人気を追い、利益を求めるのも当然だ。が、日本の野球、日本のサッカーはどうなる? そんな懸念が募る。
メディアには「報道」だけでなく「批評」や「批判」さらに「明日の豊かな社会のあり方」を提示するジャーナリズムとしての責務がある。ならば、大衆の注目度が高くなったからといって海外のスポーツの発展と利益を後押しするような報道に力を入れるだけでなく、日本のスポーツのあり方を考える必要があろう。が、そこには一つの壁が存在する。日本のメディアの多くはスポーツ・チームの所有者やスポーツ・イベントの主催者として、スポーツに深く関わっているのである。
サッカーの場合は、日本代表や五輪代表への注目度が高く、地域社会に密着したJリーグ人気も堅調で、いくら欧州サッカーの人気が高まり報道が増えても、さほど心配するには及ばない。が、問題は野球だ。
巨人戦の視聴率が一気に低下したことを嘆く声を聞く。が、そもそもテレビ局の利益を示すバロメーターでしかない視聴率で野球人気を測ることがおかしい。しかも巨人戦以外の視聴率は問題にもされないほど低い。
こんな不可思議な事態になったのは、日本のプロ野球が「プロ」とは名ばかりの企業野球であるからだ。プロ野球ならば球界全体の発展を目指す。が、企業野球は野球よりも親会社の利益が第一の目的となる。だから親会社のメディアは球界全体の発展を無視して、自分の所有する球団の人気上昇だけを目指した。
そのようなプロ野球のあり方を問い直し、Jリーグやメジャーリーグのようなスポーツ界全体の発展を目指す真の「プロスポーツ」に「改革」しなければ、という声をあげるのはジャーナリズム(メディア)の責務だろう。が、企業スポーツの親会社としては、そのような主張を展開すると、自社の利益を失いかねない。
また、プロの「改革」は当然アマチュア球界にも影響を及ぼすことになり、高校野球や社会人野球のイベントを主催したり、実況中継を行っているメディアも、改革論を口にしにくいのが実状である。
そんななかで新たに人気が急上昇したアメリカ野球に飛びつく。結局、メジャーリーグ報道の増加の一方には、メディアのスポーツとの関わり方という大問題が存在しているわけで、その問題を抜きに松井らの活躍に一喜一憂するだけでは、日本の野球界(スポーツ界)の未来は語れないのではないだろうか。 |
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