「来年の東京オリンピックは、予定通り観客を入れて開催する」
今月15日に来日したIOC(国際オリンピック委員会)トマス・バッハ会長は、力強く「開催」を断言。彼と会談した菅義偉総理も、小池百合子東京都知事も、森喜朗組織委員会会長も、来年の東京五輪大会に対して、責任ある日本側の立場の人物のすべてが、異口同音に「予定通りの開催」を断言した。
新型コロナの世界的感染が続くなか、はたして本当に開催できるの?と誰もが疑問に思って当然だろう。が、IOC会長以下、東京五輪関係者には、「開催」を口にしなければならない事情があったようだ。
東京大会に金銭的協力をするスポンサーは合計約70社だが、その契約が今年で切れる。それを1年延長してもらうためには、主催者は来年の開催を「約束」せねばならず、そのためにIOCのバッハ会長も自ら来日し、「開催」を「約束」したのだ。
確かにスポンサー企業も、来年の五輪開催が不確定では、追加費用を出すのも躊躇(ためら)われる。
じっさい収入が激減し、世界中で総額1兆円以上の赤字とも言われる航空業界で、オフィシャル・パートナーに名前を連ねる日本航空や全日空は、地上勤務の職員やキャビン・アテンダントの他業界への一時転職まで行っている。
そんななかで、約20億円の追加スポンサー料を負担できるのかどうか、大いに疑問だ。
他のスポンサー企業も、現在のコロナ禍で大幅の減収に見舞われ、契約の延長に応じているスポンサー企業は約4割しかないという調査報告もある。
だからこそバッハ会長の来日と「開催宣言」になったのだろうが、彼の努力とスポンサー企業の協力があっても、どうにもならない事情もある。それは大会期間中の医療従事者の確保だ。
1万2千名以上の選手が居住する選手村や、全33競技の会場などに、合計約5千人の医療従事者(医師や看護師など)が必要とされているが、この試算は新型コロナ禍以前の猛暑による熱中症を考えてのこと。
これにコロナ対策が加わり、選手と関係者全員の定期的PCR検査が必要となると、さらに医療従事者の増員が必要となるだろう。が、そのとき少しでもWithCorona(新型コロナの蔓延が収まりきっていない状態)の続いている状況であれば、医療従事者を五輪大会に提供できる病院や保健所があるとは思えない。
おまけに報酬が出るのは各会場の責任者数十人のみで、他は無給のボランティアだというのだ。
《否定的な考えに陥るのは気分の問題だが、肯定的な考えを打ち出すのは意志の問題》と言った哲学者がいる。
が、東京五輪を開催するという「意志」だけでは、どうも「開催」まで辿り着けそうにないのだ。
来年になればワクチンも出回り、暖かくなればコロナも終息すると断言する医療関係者もいる。が、東京五輪の出場選手がまだ決まっていない競技の予選大会の実施を考えれば、どんなに遅くとも来年3月下旬には日本だけでなく、今感染が日本以上に拡大している欧米を含めて「世界がコロナに打ち勝った証」が必要だ。
それが可能か否かはわからない。が、IOCや日本政府が東京大会の「完全開催」を強く主張するのは、翌年2月中国北京で開催される冬季五輪に「コロナに打ち勝った栄誉」を与えたくないからに違いない?
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