「それでは会議を開きます」
「ちょっと待ってほしい。どうして我が国のスポーツのやり方が、この場で非難されなければならないのか!」
「その理由をこれから説明します。慌てないで。オッホン」
「我が国がどんなスポーツ政策を実施しようと自由なはずだ。それを非難するのは内政干渉だ!」
「発言は議長の許可を得てからにしてください。では、当理事会での決議案提出国から、その内容の説明をしてください」
「ハイ。議長」
「どうぞ」
「7月にオーストラリアで開催された女子サッカー・アジアカップ並びにワールドカップ・アジア予選大会において、北朝鮮女子サッカー・チームの選手数名は、審判のオフサイド判定によるゴール取り消しに激昂し、試合後、審判団に対して暴力的に詰め寄り、主審に背後からキックを浴びせたばかりか、客席の中国人サポーターに向かってペットボトルを投げ込むなど……」
「その件に関しては、既に選手3名の出場停止という処分がくだされている!」
「不規則発言は慎むように」
「……そのような審判に対する暴力は、北朝鮮においては今回にとどまらず、男子ワールドカップ・ドイツ大会アジア予選におけるイランとの試合においても勃発し、かかる事態は単なる国際試合経験の欠如やスポーツマンシップの欠如というにとどまらず、背後に北朝鮮国内におけるスポーツマンに対する勝利への強い政治的圧力、すなわちスポーツマンに対する人権蹂躙が存在すると考えられます。従って当理事会は、北朝鮮のスポーツ界の現状を非難すると同時に、改善を促す決議案を……」
「内政干渉だ! 明らかに内政干渉だ! 何を馬鹿なことをホザクか! 主力の3人が抜けたチームに負けてしまった国が!」
「不規則発言は控えてください」
「北朝鮮国内においては、オリンピックやワールドカップで活躍したスポーツマンに、高級外車やマンションが与えられる一方、活躍できなかった選手には炭坑での強制労働を課すなど……」
「どこにそんな証拠があるんだ! 資本主義に毒されたスキャンダル報道なんぞを国際会議に持ち出すな!」
「だったらIAEAの査察を受け入れるべきだ! International Atheletic Event Agencyの査察官に、貴国のスポーツのやり方、練習のやり方、監督コーチの指導等々、すべて開放して見せるべきだ!」
「それこそ内政干渉だ! スポーツは自由に行われるべきだ!」
「おおーっと。貴国からそんな言葉が出るとは片腹痛い。貴国ではスポーツの自由が奪われてるから、当理事会が問題にしてるのだ。ショーグン様のためのスポーツという思想は、明らかにスポーツマンが自由にスポーツを行う権利を剥奪してる!」
「ならば、神様のために闘ってるスポーツマンはどうなる? 試合前にコーランを流したり、フィールドにはいるときに十字を切る行為も、すべてスポーツマンの自由を剥奪しているというのか!」
「個人の自由意志と政治権力による圧力を一緒に語るな! 当理事会が過去のスポーツに対する政治権力の介入に対する反省から、スポーツの自由とスポーツマンの人権擁護をめざして設立されたことを認識するべきだ!」
「負けた悔しさでホザクんじゃない!」
「(ドン・ドン・ドン=これ議長の叩く木槌の音です)両国代表とも不規則発言をやめるように。この会議は、S保理すなわちスポーツ保障理事会なんですから、スポーツマンシップに則って、安保理以上にルールを守ってください。オッホン。では、北朝鮮のスポーツのあり方に関する非難決議案に賛成の理事の挙手を求めます。イチ、ニイ、サン…。数えるまでもありませんな。全会一致で本決議案は採択されました」
「内政干渉だ! 不当な決議だ! 我が国のスポーツの強さを見せつけてやる! PDKスポーツ・マンセイ(万歳)!」
「おやおや。せっかくロシアや中国の反対で、国際大会への出場停止処分は、決議案の文面から削除されたというのに、45秒での拒否退席は世界新記録ですな。では、次の課題に移ります。北朝鮮に続いてスポーツに問題あるアジアの国への決議案を提出した国の代表は内容説明を……」
「ハイ。議長。真夏の最も暑い季節の炎天下で、投手に200球以上の投球を強いているばかりか、トレーニング時における暴力行為が今もって散見される極東の島国の高校野球のあり方について、それは明らかに非スポーツ行為であるという以上に、青少年に対する虐待行為であり……しかも、そのような虐待行為を監視すべき新聞社がスポーツ・ジャーナリズムを放棄し、そのイベントの主催者として虐待行為を黙認しているばかりか、この国では他の新聞社もプロ野球チームを所有したり、マラソン大会を主催するなどして、自由で健全なスポーツ・ジャーナリズムが損なわれ……あろうことか、経済的に先進国であるにもかかわらず、テレビと新聞が同じ資本系列のクロス・オーナーシップという発展途上国のメディア並みの後進的組織で……さらに大新聞者の経営責任者と編集責任者が同一人物という驚くべき事態まで放置され、しかも何ら疑問の声すらあがらず……スポーツ・ジャーナリズムがまったく機能していない状態で……」 |