凄い投手が現れたものだ。改めて言うまでもなく、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手のことだ。
何しろ4月10日の対オリックス戦でプロ野球史上16人目、28年ぶりの完全試合を達成したうえ、13打者連続奪三振の日本新記録、1試合19奪三振の日本タイ記録まで樹立。
1週間後の対日本ハム戦でも、8回までパーフェクト・ピッチングで一人の走者も出さず、2試合連続完全試合という米大リーグでも、いや世界中のあらゆる野球リーグでも(おそらく)記録されたことのない超大記録の寸前まで達したのだ。
が、投球数が102球になったところでマリーンズ井口監督は佐々木投手を降板させた。彼自身も「球数が多く、疲れていたので納得」と語った。
ファンのなかには空前絶後の大記録という歴史的瞬間を見たかったと思う人も多かったようだ。が、私は「けがのリスクを回避した」という井口監督の判断は正しかったと断言できる。
そもそもピッチャーの投球動作は、人間の身体の自然な動きとは言えないのだ。
野球がアメリカで最初にルールが整えられた19世紀の中頃までのピッチャーは、今のソフトボールの投手のように下手からピッチして(ポイと放って)いた。
そのうち徐々に、バッターの打撃力が向上。それに対して投手も強い投球が求められるようになり、1883年には下手投げ(アンダーハンドスロー)に横手投げ(サイドハンドスロー)が加わり、翌1884年には上手投げ(オーバーハンドスロー)も認められるようになった。
当時は6フィート(約180p)四方のピッチャーズボックスのなかで、何歩かステップを踏むことで、身体を斜めに倒して腕を振り上げ振り下ろす投げ方で、ボールをオーバーハンドで投げることは容易にできた。
が、投打のバランスはかなり投手のほうが有利となり、徐々に投打の距離を長くしたうえ、1893年にはピッチャーズボックスを廃止。ピッチャーズプレート(現在の規則では約61p×15pの長方形の投手板)を片足で踏み、もう一方の足を前方に一歩を踏み出すだけで投げるようになった。
これは人間の肩や肘の関節の動きとしては、野球の投手の投げ方以外に存在しない特殊な動作で、野球を知らない人が石を投げる場合などは、必ず腕を横か下から動かして(回して)投げる。
上から投げる場合があっても、腕は前から上げて前へ下ろすのが自然な投げ方だ。
ところが野球の投手は腕を下から後ろへ回し、肱と手首を反転させながら引きあげた腕をバネのようにしならせ、ボールを前方へ投げるようになった。
その結果時速160キロを超すボールを投げる(指先をその速さで動かす)ことまで可能になったのだが、肩や肘の関節や腱を故障するようになってしまった。
かつてテレビ番組で、ボクシングの世界王者時代の具志堅用高選手の左ストレートの速さを測定したことがあった。その時速は約40q。その速さで、急に物体が1メートル前から約0.06秒で飛び出してくるのも凄いことだが、野球の投手は、身体全体を使うことで、腕の指先を時速160キロで動かすのだ。
投手がそんな動作を1試合で100回以上も続けていることを思うと、もっと投げろとは言えないだろう。
しかし……。高校野球の試合での球数制限が「1週間で500球以内」とは呆れてしまう。高野連は、プロ野球選手より高校生の肉体のほうが強靱だと考えているのだろうか?
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