サッカーのルーツは、人類史上初の文明とされる紀元前5千年以上前のメソポタミアにまで遡るといわれている。
その地で世界の支配者を決める「太陽」(丸い球)の奪い合いとして始まった球戯(ボールゲーム)は、東へ伝わって中国大陸で蹴鞠(しゅうぎく)、極東の島国で毬杖(ぎっちょう)となり、西へ伝わりローマ帝国でカルチョ、中世フランスでラ・シュール、産業革命時のイギリスでフットボールとなり、やがて全世界にそのルールが広まり、現在では2百の国と地域で競技人口2億4千万人を超す「地球上最大規模の人類文化」にまでなった。
そして1930年南アメリカ・ウルグアイ大会に始まったワールドカップは、4年に一度、10億人以上の人々の耳目を集める現代社会最大の祭典となった。
その大会が、今年は初めてアフリカの地で開催される。
アフリカは約7百万年前に我々の祖先が誕生した「人類生誕の地」である。そこから「壮大な旅」(ザ・グレイト・ジャーニー)によって全地球上に広がった人類は、比類なき文明を創り出し、最大規模に発展したフットボール文化とともに、いま生誕の地に戻るのである。
それは、新たな「人類史の幕開け」となるほどの大きな出来事といえるかもしれない。
1964年の東京オリンピックを知っている年長者には、忘れられない記憶がある。
第二次世界大戦後に独立した新興アフリカ諸国の選手が、わずか一人か二人で国旗を掲げて開会式に登場し、しかし目を瞠る鮮やかな民族衣装で入場行進に臨んだのだ。
コンゴ、カメルーン、ニジェール、コートジボワール……などの少数の選手が胸を張り、堂々と歩く姿に感動したアナウンサーは、「雄々しく、健気であります! 見事な民族衣装! 素晴らしい肉体美! 圧倒されます!」と、絶叫した。
それから約半世紀。地上最大のイベントの開催国となった南アフリカをはじめ、予選を勝ち抜いて参加するカメルーン、ナイジェリア、アルジェリア、ガーナ、コートジボワールのアフリカ各国は、いずれもヨーロッパの有名ビッグ・クラブで活躍する選手を輩出している。
そして地元開催の今大会では欧州選手権の覇者スペインや、プレ大会(コンフェデレーションズ・カップ)優勝国のブラジル、さらにクリスティアーノ・ロナウドを擁するポルトガル、メッシが牽引するアルゼンチン等々の強豪国を相手に、まさに「アフリカの時代」の到来を思わせる活躍が期待されている。
あるいはアジア諸国や北アメリカ諸国も、アフリカ諸国とともに、ヨーロッパと南米中心のフットボールの「過去の世界」に風穴を開けるかもしれない。
人類発祥の大陸に戻り、民族の融和を願った南アフリカのマンデラ元大統領が未来への希望を込めて「虹の国」と称した国での初の大会は、新たな歴史の出発点となるに違いない。
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