本欄では、過去2回にわたって、様々なスポーツの名称の持つ「意味」を考えてきた。
バレーボールVolleyballとは……? ドッジボールDodgeballとは……? サッカーSoccerとは……、どういう意味か? もう、おわかりですよね。
そこで最後に、スポーツSportsという言葉にたどり着く。はたしてスポーツとは、どういう意味なのか? これは、かなり難しい問題で、じつは日本語には、スポーツに該当する言葉が存在しないのだ。
明治時代の文明開化で、テニス、ベースボール、サッカー、ラグビー、陸上競技………等々、欧米から様々なスポーツ競技が伝播したとき、「スポーツ」という言葉は、まず最初に「釣り」と翻訳された。
おそらく、海か川で釣りを楽しんでいた外国人に「何をやってるんだ?What are you doing?」と訊くと、「スポーツをやっている。I'm
playing a sport.」という答えが返ってきたのだろう。
そこで「スポーツ=釣り」と思ったのだろうが、少し経つと、スポーツに「乗馬」という訳語が登場する。これも、馬に乗ってる外国人が「スポーツをやってる」と答えたからだろう。が、「釣り」も「乗馬」も「スポーツ」なら、スポーツとは何だ? という疑問が出てきた。
そのうち明治20年に出版された『Out Door Games』という書物で様々なスポーツ競技が紹介され、その本が『戸外遊戯法』と訳されたことから、ゲームやスポーツが「遊戯」と訳されたこともあった。が、軍隊が兵士の訓練のため、鉄棒、跳び箱、駆け足、行進、格闘技……などなど、多くのスポーツを取り入れており、それを「遊戯」と称するわけにはいかず、「運動」「体育」という言葉が使われるようになった。
学校でも体育という言葉が定着し、1964年の東京オリンピックを記念して「体育の日(英語ではSports and Health Day)」も制定され、「スポーツ=体育」という認識が広がったのだった。
しかし「体育」を英訳すれば「フィジカル・エデュケーションPhysical Education=身体教育」で、「スポーツ」にはならない。
スポーツSportsとは、もともとラテン語のデポルターレDeportareから生まれた言葉で、「日常の労働から離れた遊びの時空間」を意味した。つまり「祭」や「余暇(レジャー)」の時空間。その言葉がディスポルトDisportとなり(disは「離れる」、port=「港」も「離れる」の意)、スポーツSportsとなった。
だから広い意味でのスポーツには、運動競技(アスレチックスAthletics)だけでなく、音楽、演劇、絵画、舞踏……などの「非日常的」な芸術行為や文化活動も含まれるのだ。
またスポーツは、サッカーの歴史を学ぶことがユーラシア大陸の歴史を学ぶことにつながったり、ベースボールの歴史がアメリカの歴史を表すなど「知育」の要素もあれば、スポーツマンシップは「徳育」の要素を含み、けっして「体育」だけで表せる言葉ではないのだ。
そこで現在、スポーツ議員連盟に加わっている国会議員の方々は、「体育の日」を「スポーツの日」に変更し、「国民体育大会National Sports
Festival」を「国民スポーツ大会(または国民スポーツ祭)」に、「日本体育協会Japan Sports Association」を「日本スポーツ協会」に変えようという動きと取り組んでいる。
1961年に施行されたスポーツ振興法が全面的に改訂され、2011年にスポーツ基本法が施行されたが、このとき残った3つの「体育」という言葉を消し去って、すべてスポーツという言葉に置き換えようというのだ。
これに対して、国民の祝日の名称に外国語を用いるのはよくない、と反論する人もいるらしい。が、カタカナで書くスポーツは、いまでは既に、立派な日本語ですよね。 |