何年か前から、高校野球で不思議に思い始めたことがあった。それは開会式の行進が変わってきたことだ。
指先までピンと伸ばした両手を、前方約45度の高さに振り上げ、膝を曲げた腿を90度に上げて歩く。それが行進だと、私は思っていた。たしか中学の体育の授業で、そう教えられたようにも記憶している。
が、数年前から、妙な歩き方が目につくようになった。
両手で拳を握り、前方へ振り出す腕は肩の高さ(90度)まで上げ、握った手の平を真下に向けて拳を突き出すようにして歩く。そんな学校が増えてきたのだ。
何故こんなオカシナ歩き方をするのか? ……という疑問はやがて氷解した。
それは陸上自衛隊の分列行進の歩き方だっだ。
そもそも開会式の行進は旧帝国陸軍の分列行進がモデルだった。
主催者の大阪朝日新聞社が大会を始める4年前(明治44年)、東京朝日新聞社が「野球と其害毒」というキャンペーンを約1か月に渡って繰り広げ、新渡戸稲造、乃木希典らの高名な論客が次つぎと登場して、学生に及ぼす野球の弊害や悪影響を激しく指弾した。
一方、福沢諭吉の創刊した時事新報等が、野球は教育的に優れてるという主張を展開。賛否両論渦巻くなか、結果的に野球人気は一段と上昇した。
そこで大阪朝日新聞社は、高校(旧制中学)野球の全国大会を始めるにあたり、その教育的価値を強調しなければならなくなり、試合前にホームプレートを挟んで両チームが礼をするルールを創ったり、開会式に帝国陸軍の分列行進を取り入れたりしたのだ。
当時は、スポーツと軍隊の結びつきは世界的にも強く、五輪の開会式でも軍隊式の分列行進が行われていた。が、80年代頃から世界のスポーツ界から軍事色が消え、開会式の行進は選手の歓びを表す表現の場に変化した。
地方予選の開会式では、足を揃えず笑顔で手を振って入場した学校もあったらしい。が、高野連からすぐに注意を受けてナオされたという。
はたして高校野球から「軍事色」が消えるのはいつのことになるのだろうか? |