2020東京オリンピックのマラソンと競歩の会場を札幌に移転! このニュースには驚かされた。
きっかけは今月上旬、カタールで行われた世界陸上のマラソン(特に女子マラソン)や競歩が、深夜に行われたにもかかわらず、30度と70%を超す環境で、多くの選手が(特に女子マラソンでは4割近い選手が)途中棄権。
それを受けて、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は、同様の高温多湿が予想される東京でのマラソンと競歩を、「選手ファースト」の観点から、平均気温で5〜6度下回る札幌に移すことに決めたというのだ。
何を今さら! そんなことは、ずっと前からわかっていたことではないか!
昨年7月23日、東京五輪開幕日のちょうど2年前、東京は観測史上最高となる気温40・8度を記録。その時点での変更だったなら、まだチケットも発売されておらず、札幌移転の準備期間も十分にあったはずだ。
が、今から9か月足らずの準備期間では、新たなコース設定、警備計画、ボランティアの募集、チケットの払い戻しと新たなチケットの発売、選手役員観客の宿泊施設の確保……等々、相当の混乱も予想される。
一方で路面の温度上昇を約10度抑える道路の特別舗装を、マラソン予定コースを含む136`で整備する計画を進め、観客にもミストシャワーを用意するなど、数々の暑さ対策と取り組んでいた東京都は、肩透かしを喰らったも同然。
しかも深夜の真っ暗な無観客に近い環境で走ったカタールと、東京の名所巡りのコースでは、同じ暑さでも選手の心理に与える影響には差が出ると思えるが……。
おまけに小池都知事には、この変更が一切知らされてなかったとか(組織上では都知事が組織委会長を任命するはずですよね)。
東京五輪予選のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)も東京五輪で予定していたのとほぼ同じコースで実施したばかりで、それに勝利した選手も動揺した様子。涼しい環境でのスピードレースよりも、高温多湿での耐久レースのほうが、日本人選手には有利ですからね。
しかも男子マラソンは常に最終日に行われ、閉会式の直前に表彰式が行われる五輪最高のイベントーーとなると、浅草や銀座、東京タワーやスカイツリーや皇居など、東京の名所が全世界にテレビ中継で映し出されることもふくめて、何とか東京での実施を強く主張することはできなかったのか、とも思われる。
しかしオリンピックとはそもそもIOCが主催するイベント。東京オリンピックと銘打っても、開催都市の東京は場所を提供し、主催者のIOCに協力するというのが大原則なのだ。
とはいえIOCの「選手に良い環境で」との主張も、建前だけの美辞麗句に過ぎないように思える。
本気で「選手ファースト」を考えるなら、1964年の東京五輪のように秋開催にするべきだが、それは高額の放送権料を支払っているアメリカのTV局が許さない。メジャーリーグのワールドシリーズや、バスケ(NBA)アメフト(NFL)の開幕など、目白押しのスポーツ・ビッグ・イベントと重なるのだ。
つまり「選手ファースト」よりも「マネー・ファースト」というのが五輪の実情なのだ。
しかも巨額の経費のかかる五輪開催に立候補する都市が減少。IOCはパリとロサンゼルスに24年と28年の開催都市を割り振ったが、地球温暖化で今年7月25日パリは観測史上最高の42・6度を記録。ロスは84年の前回大会でも熱中症で倒れる選手を出している(マラソンのゴールに、意識朦朧の状態で倒れ込んだアンデルセン選手を、多くの人がまだ記憶しているだろう)。
来年の東京五輪の猛暑対策だけでなく、「マネー・ファースト」を根本的に考え直さない限り、地球温暖化の進む現在、オリンピックに未来はなさそうだ。 |