コラム「スポーツ編」
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掲載日2011-09-28
この原稿は、公益財団法人日本体育協会が季刊で発行している『指導者のためのスポーツジャーナル』(2011年秋号)という本の「スポーツ草紙」というコーナーに書いたものです。世の中には「体育」という「間違った名称」のもとで「スポーツ」に携わっている人が多いのですよね。東京五輪2020年招致に向けて、微力ながらそういう考えを是正したいという気持ちを込めて“蔵出し”します。

「体育」では「体づくり」だけでなく「スポーツの歴史・文化」も教えてほしい

「3・11」の東日本大震災から約2週間が過ぎた3月下旬、中村敏雄先生が逝去された。
 中村先生は(もちろん御存知の方も多いと思うが)東京教育大学(現・筑波大学)附属高校や山口大学、広島大学などで教鞭を執られ、『オフサイドはなぜ反則か』『メンバーチェンジの思想』『近代スポーツ批判』『スポーツの風土』といったスポーツに関する名著を数多くものにされた方で、私は、先生の著作に出逢ってからスポーツに対する考え方がガラリと変わった。

 どんなふうに変わったかというと、目の前に存在しているスポーツだけを見て評価や判断を下すのではなく、常に「歴史認識」「文化認識」という視座を意識するようになった。

 たとえば日本の女子サッカー「なでしこジャパン」がワールドカップで大活躍……というニュースに接すると、そもそも世界や日本で女子サッカーが盛んになったのはいつ頃のことか?(それは1980年以降、ほんの最近のことだ)なぜ女子サッカーはつい最近まで盛んにならなかったのか?(やはり女子が脚で物=ボールを扱うのは礼儀に反するという「文化」が洋の東西を問わずに存在したから?)……といったことを頭に入れるようにしてから、目の前の出来事を見て、考えるようになったのだ。

 一言で言えば多分、ジャーナリスティックな視点にアカデミックな視座を取り入れるようになった、ということになるのだろうが、現在のマスメディアのスポーツ報道には、この「視座」(歴史認識と文化認識)がいちばん欠けているようにも思う。

 たとえば大相撲の八百長問題が騒がれたときには、力士はなぜ髷を結ってるのか……という単純な疑問に対する理解を抜きに、ただ「八百長は悪い」という「歴史認識を欠いた判断」を下してしまったから、大相撲の神事としての宗教的側面や、相撲甚句などを伴う芸能的な興行としての側面などが見逃されてしまったわけだ。

 だから「神事」でもあり「興行」でもある大相撲が、まるで純粋な「近代スポーツ」のように語られるようになり、「立ち合い」の息(阿吽の呼吸)が合わず、「待った」が多くなってくると、仕切り線に埋め込んだLEDライトが光ったら立ち合うようにすればいい……といった「改善策」をマジメに口にする人まで現れた(そうなれば日本の大相撲文化は死滅することになるだろう)。

 また、東京が2016年のオリンピック招致でリオデジャネイロに敗れたときは、都民の支持が低かった(リオは84.5%の市民が五輪招致に賛成したが、東京は55.5%しか賛同する都民がいなかった)ことが大きな敗因として指摘された。

 では、なぜ、五輪招致の機運がその程度しか盛りあがらなかったのか? その疑問に関してマスメディアは、ムードが盛りあがらない、と雰囲気で語るだけで、適確な「文化論(スポーツ文化の差異)」を語らなかった。

 それは一言で言えば、「スポーツクラブの存在形態の違い」であり、リオの「バスコ・ダ・ガマ」「フルミネンセ」「ボダフォゴ」などの「クラブ」は、日本ではサッカーチームだけが有名だが、他にバスケットボールやバレーボール、ハンドボールやボート、ボクシング等のスポーツチームやスポーツ教室も有している市民参加の総合型スポーツクラブが基本。

 他にもリオに沢山ある他の競技(水泳や陸上等)の「クラブ」とも連携し、リオにオリンピックが招致されれば、それらの「クラブ」の施設も良くなり、市民のスポーツ環境も改善され、結局市民の「住環境」が整備されることにつながる……だから市民の五輪招致に対する支持が高まったのだ。

 残念ながら東京の場合は、JリーグのFC東京が将来的にはそのような「市民参加型の総合クラブ」を目指しているかもしれないが、未成熟というほかなく、東京読売巨人軍や東京ヤクルト・スワローズなどのプロ野球チームは「市民参加総合型クラブ」とは程遠い「興行組織」でしかない。

 となると2020年の東京五輪招致も世論は盛りあがらず、2018年の冬季五輪が韓国の平昌に決まったから2大会連続東アジアでの五輪開催は難しい……という以上に、リオと招致を争ったときの市民の支持率が、リオ以上の84.9%もあったスペイン・マドリッドの後塵を拝するほかないのか……?

 いや、大切なのは「五輪招致」ではないはずだ。招致運動をきっかけに市民のスポーツ環境が整備され、住環境が改善され、暮らしやすい幸福な都市作りにつながる……というのなら、たとえ招致に失敗しても、五輪開催に立候補する価値はある、といえるだろう。また、それなら、「招致反対」「税金の無駄遣い反対」と言う人々も説得できるに違いない。

 前回1964年の東京オリンピックは第二次世界大戦の戦災からの復興五輪で、二度目は東日本大震災からの復興……というのは「歴史認識」を含む考え方かもしれないが、「文化認識」が忘れられている――たぶん中村敏雄先生は、そう指摘されるに違いない。

「体育教育」は、子供たちの「体作り」や「チャレンジ精神」「競争心」「協調性」などを育むだけでなく、「スポーツの歴史」や「スポーツ文化」を教える場でもあるはずだ――。

********************

  2020年東京五輪招致に関しては、それをきっかけに福島第一原発に関する情報を世界へ向けて詳しく発する必要が出てくる(だから、日本人にとっても有意義だ)ということを、一言付け加えておきます。もちろんその情報開示の結果、五輪開催どころではないとなれば、五輪開催から撤退すべきでしょうが、そのことは改めて原稿に書きます。

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