高度成長時代に絶大な人気を博したスポ根マンガ『巨人の星』は、誰もが御存知だろう。が、あのマンガには、間違い、とまではいえないが、少々オカシナところがあった。マウンドに立った主人公の星飛雄馬の目のなかにメラメラと炎が燃えあがるのがオカシイというのではない。マウンド上で涙を流し、苦悶しながら投球を続ける飛雄馬は、どう見ても当時のミスター・タイガース村山実の姿そのものだった。
逆に、縦縞のユニフォームを着て颯爽と打席に立ち、軽やかに強打を放つ花形満は、ミスター・ジャイアンツ長嶋茂雄のイメージにほかならなかった。
現実のミスター・タイガースとミスター・ジャイアンツが、マンガでは入れ替わっていたのだ。が、そのことを指摘した人は誰もいなかった(いまも、いない。「私」以外には)。
しかし、それで、いいのだ。
星飛雄馬は明らかに初代ミスター・ジャイアンツ沢村栄治がモデルで、彼はプロ野球草創期の貧打の巨人にあって、ひとり苦悩しながら豪速球を投げ続けた。そんな刻苦勉励型のミスター・ジャイアンツの伝統は、川上哲治、王貞治、西本聖へ(それに川相も?)と引き継がれたのだ。
一方、花形満のモデルは景浦将で、彼はチャンスで打席に立つと、「ここで打ったらナンボ出す?」と監督に訊き、ホームランを放つと「もうけ、もうけ!」と叫びながらダイヤモンドを一周したという。その奔放豪快なミスター・タイガースの系譜は、藤村富美男、田淵幸一、江夏豊、掛布雅之へと引き継がれた。要するに村山と長嶋(それに江川と清原も?)が、入団すべき球団を取り違えたのだ。
星野監督が「今年は全員の勝利。MVPを一人選ぶのは無理」といい、ファンもその言葉に納得するのは、事実がそうだからというにとどまらず、ミスター・タイガースのイメージを体現している選手がいないから、ともいえるだろう。だからといって、新庄が戻ってくるのも考え物ですが(笑)。 |