角界での暴力事件が後を絶たないと思っていたら、今度は女子レスリング界での「パワハラ」疑惑が週刊誌で大きく報じられた
事実関係はともかく、両者にはよく似た構造的欠陥が存在している。
それは全体(角界やレスリグ界)を統括し管理運営する立場の人物が、個別の組織(部屋や学校)の責任者でもある、という「二重構造」だ。
日本相撲協会理事長の八角親方は、八角部屋を率いる親方でもある。他の理事もそれぞれ自分たちの部屋を所有し(または部屋に所属し)、弟子の力士たちを指導したり部屋の運営に携わったりしている。
至学館大学や同高校の女子レスリング部を指導し、数多くの五輪メダリストを育てあげた栄和人コーチは、その功績が認められ、日本レスリング協会選手強化本部長の任に就き、男子選手の指導も行うようになり、協会の理事にも就任した。
が、至学館でのコーチは続けている。
このように角界やレスリング界全体の発展を目指す立場に就いている人物が、個別の組織の一員でもある場合、その人物は全体の発展を目指すのか? それとも自分の所属組織の利益を目指すのか? それは、両方の立場を兼ねる人物の裁量(良心?)に委ねられることになる。
もちろん組織全体の発展に責任を持つべき人物は、自分の所属する個別の組織よりも、全体の利益を目指さなければならないはずだ。
が、はたして、それは可能だろうか?
かつては日本のプロ野球界も、同じような形態の組織構造をしていた。
現在のプロ野球リーグを創設した読売新聞社は、1934(昭和9)年に大日本東京野球倶楽部(のちの読売巨人軍)を創立したのち、様々な企業にプロ野球チームの創設を呼びかけ、今日まで続くプロ野球リーグを立ちあげた。
そのため常にリーグ全体の指導的立場に立った読売巨人軍は、チームの強化を目指して他球団の有力選手を強引に引き抜いたり(別所投手引き抜き事件など)、アマチュアの有力選手を獲得するため、ドラフト制度を無視するなど(江川事件)、何度も物議を醸す事件を引き起こした。
その都度プロ野球ファンの多くは怒り心頭に発したものだが、かつての巨人軍関係者は「巨人が勝たないとプロ野球人気は高まらない」と言い放ち、数多くの根強い巨人ファンに支えられた巨人軍が優勝することで、それらの「横暴」もいつしか忘れ去られたのだった。
このような「強い人気チーム」の「一強体制」を反面教師とした日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は、理事長(チェアマン)を選挙で選ぶとき、各チームの代表の誰かをリーグ事情に精通した人物として選出することもあった(鹿島アントラーズの鈴木昌、セレッソ大阪の大東和美、鬼武健二の各氏)が、その場合は兼務を避け、各クラブの代表取締役の立場は辞任し、リーグ全体を統括する立場に専念することをルールとした。
それが、組織としては当然のあり方と言えるだろう。
日本のスポーツ界は欧米からの輸入文化として生まれ、発展したため、どんな組織を創ればいいのかわからない面が多かった。
そのため過去に(江戸時代から)存在していた相撲部屋制度を真似た組織が数多く作られた。
ボクシングは、経営者とコーチ(選手の指導者)とマネジャー(選手の交渉代理人)が分離することなく、「相撲部屋の親方」のように「ジムの会長」が存在するようになった。
そして野球や様々のスポーツでも、角界の組織のように、あるチーム(部屋)の代表(親方)がリーグ全体を代表し、統括運営する組織が作られた。
そんな柵(しがらみ)から脱したのがサッカー界(Jリーグ)で、脱しかけているのがプロ野球界(?)と言えるかもしれない。そして脱していないのがレスリング界だ。さて、日本の「スポーツ組織」の未来は、どう変わっていくだろうか? |