7月17日。1年延期となった東京オリンピックの開幕まで約1年となったその日、組織委員会は予定通りすべての競技を開催するとして、今年とほぼ同じスケジュールを発表した。
そしてIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長も、新型コロナの世界的感染を心配し、「あらゆる対応を考慮する」と言いながらも、「準備は順調」と発言。
そんななかで、大きくは報道されなかったが。IOCの古参委員で「東京五輪の1年延長案」を最も早く提唱したディック・パウンド氏が、きわめて注目すべき意味深長な発言を口にした。
「東京オリンピックが中止になれば、約半年後に北京で開催予定の冬季オリンピックも、中止されます」
そしてパウンド氏は、「同じアジアで状況が違うとは考えられない」との理由を口にした。
その理由が科学的に正しいか否かは関係ない。これは明らかに「政治的発言」なのだ。
東京都知事選の最中、小池東京都知事は、東京五輪の中止や再延期を主張する何人かの候補者の発言に対して、次のような言葉を返した。
「東京オリンピックが中止になれば、中国が冬季五輪を国を挙げて行います。ならば我々(日本)が(中国より先に)コロナに打ち勝った証(あかし)を示さなければなりません」
これは明らかにオリンピックの「政治利用」を堂々と(臆面もなく)口にした「政治的発言」で、国際平和の精神を謳う「五輪憲章」違反の言葉と言うほかない。
が、オリンピックとは、ほとんどすべての大会で、そのような「政治利用」がなされてきたことも事実だ。
私自身、小池発言と同様の「政治的発言」を、他の何人かの政治家や、組織委幹部の口から直接聞いたこともある。
「新型コロナ撲滅記念オリンピック」の開催の栄誉は、中国北京ではなく日本の東京が先に……と本気で思うのであれば、GoToキャンペーンやアベノマスクですったもんだする前に、4か月も前から多くの人が主張しているPCR検査の拡充を……と言いたくもなる。
が、それはさておき、IOCの古参委員は「北京(中国)のことなど意識せず、中止決定となった場合も、心置きなく受け入れてください」と、老婆心を発揮してくれたのか?
あるいは毒を以て毒を制す、とばかりに、「政治的発言」に対して「政治的観測気球」を打ち上げたのか?
小池都知事や日本の政治家の「五輪政治利用発言」にはウンザリだが、IOCの正式発言ではない場所での「政治的思わせ振り」にも腹が立つ。
IOCバッハ会長は、組織委の考えている開閉会式の簡素化にも反対のようで、それはアメリカのTV局が莫大な放送権料を支払って用意した放送枠(放送時間)を埋めること(そしてアメリカのテレビ局が莫大な広告収入を得るため)だという。
コロナ対策(人命)よりもテレビ局のビジネス優先というIOCの商業主義は、真夏の猛暑のなかでの大会実施と同様、「アスリート・ファースト」という文言が口先だけであることを白日の下に示した。
そして「東京中止なら北京も」との発言も、中止してもIOCは保険金を得て傷つかないから、と言う人もいる。
ならば各種世論調査で国民の半数以上が開催中止か再延期を望んでいる来年の大会に、3千億円以上もの公的資金を注ぎ込むのは停止し、IOCに対して早期中止の決断を求めるのが最上の選択と言えるのではないだろうか?
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