「ジャイアンツはどうしちゃったんでしょうねえ?シーズン開幕当初は連勝に次ぐ連勝で、もう優勝決定かとまでいわれたのに、なぜか観客動員も伸びず、テレビの視聴率も去年以下に低迷。そのうちチームも負けだして、今や最下位争いですよ。勝っても人気が伸びないとわかると、選手もやる気をなくしちゃったのかな…なんて思うんですけど、巨人の人気を回復する方法はないもんでしょうか?」
電話で出演したラジオのアナウンサーに、そんな質問をされたので、次のように答えた。
「それは、じつに簡単なことです。巨人の人気を回復するなんて、赤子の手を捻(ひね)るくらい簡単にできますよ」
ところが、ここまで話した直後に、なぜか電話回線がおかしくなって、小生の声がスタジオへ届かなくなったらしく、「もしもし、もしもし、聞こえますか…」というアナウンサーの声が受話器から響くばかりで、そのうち回線が切れてしまった。
それからしばらくして、ラジオを聞いていたという男性から電話がかかってきた。
「巨人の人気回復は簡単だといったな。いったい、どんなふうに簡単なのか、いってみろ」
どなたですか? と訊き返すと、
「誰でもいいだろ。赤子の手を捻るほど簡単な方法なら、いますぐ一言でいってみろ」
鬱陶しいとは思ったが、たしかに一言でいえる簡単なことなので、答えることにした。
「本拠地を新潟に移転するんですよ」
「なにぃ……?」
「アルビレックスが毎試合4万人以上もの観客動員を記録してることでもわかるように、いま新潟はスポーツで盛りあがってます。それに2009年に開かれる新潟国体に向けて新球場建設も予定されてます。天然芝の日本一美しい球場へジャイアンツが移転するなら、球場は連日超満員。北信越から北関東のテレビ視聴率も、福岡や札幌や東北並に毎試合15パーセント以上は確保できます」
「おまえは馬鹿か」
「……?」
「そんなこと、ジャイアンツができるわけないだろ!」
「できませんか?」
「ジャイアンツは東京が本拠地に決まってる」
「どうして、ですか?」
「……そんなこと……当たり前のことだ」
「当たり前じゃないですよ。ファイターズだって、札幌に本拠地を移して成功してますよ」
「おまえは、底抜けの馬鹿だな。ハム屋と一緒にするな」
「なるほど。新聞屋さんやテレビ屋さんは事情が違うと…」
「当たり前だ」
「だったら、私の人気回復策も意味ないですね」
「そのとおりだ」
「私は、ジャイアンツという野球チームと日本のプロ野球界の人気回復を考えて話してますけど、あなたは新聞の売上げやテレビの視聴率のことを考えてるんだから…」
「……」
「私は、日本の野球界のことは心配してますけど、新聞やテレビのことは、別に何とも思ってませんから」
ガチャッという音が響いて、回線が切れた。その直後、再び電話の呼び出し音が鳴った。
「ラジオを聞いてた者ですけど……」
女性だった。
「あなたは、幼児虐待をなんと思ってるんですか! 赤子の手を捻る、なんて言葉を軽々しく口にしないでください」
それは単なる諺で…。
「諺でも、公共の電波に乗せてていいものといけないものがあるはずです。多くの幼気(いたいけ)な赤ちゃんが、無自覚な若い親から虐待を受ける事件が次々と起きている昨今、もう少し言葉遣いに神経を使ってください」
たしかに、そういう御時世なのかもしれない…と思った私の頭に、面白い言葉が浮かんだ。
だったら、これからは「巨人の手を捻るようなもの……」ということにしよう。
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