今年のプロ野球の話題の中心は、何といっても日本ハムファイターズの斉藤佑樹投手だろう。
いや、中央大から巨人入りした澤村拓一投手や、早稲田大の斎藤の同僚で広島カープ入りした福井優也投手や、西武ライオンズ入りした大石達也投手のほうが実力は上……という声も聞くが、斎藤投手が最も多くのファンをキャンプ地やオープン戦に集め、他の新人選手とは比べ物にならないほど(すべてのプロ野球選手のなかでもダントツで?)メディアに騒がれたことは、紛れもない事実である。
今後彼が超一流のスターとなって輝くか否かは、プロ野球の投手としての活躍次第……だろうが、スーパースターとなる条件を備えているのは確かといえるだろう。
その斎藤投手は、過去のスーパースターと較べて、大きく異なる特徴がある。それは、高齢者(なかでもオバサマたち)のファンが多い、ということである。
プロ野球の過去のスーパースターといえば、長嶋茂雄の名前をあげないわけにはいかない。
長嶋がプロ入りしたのは1958年。日本がちょうど高度経済成長に向けてスタートを切った頃で、それを担った当時働き盛りの「モーレツ・サラリーマン」たちは、長嶋の活躍する姿を見て、自分たちもがんばらなきゃ……と思い、仕事に励んだものだったという。
やがて王貞治も加わり、「ON砲」と呼ばれた強力な打棒は子供たちの人気も集め、1964年の東京五輪や1970年の大阪万博を経て、9年連続日本一(V9=1965〜1973年)を達成。それは日本が高度成長を成し遂げた期間とピタリと一致した。
そして、その年の秋(10月)、第四次中東戦争によるオイルショックとともに日本の右肩上がりの成長にも翳りが見え、翌年ジャイアンツはV10を逃し、長嶋は現役選手を引退。
その後プロ野球は、かつて弱小といわれた広島カープが、古葉竹識監督のもとで常に優勝争いに加わるほどの球団に成長し(1975〜86年)、日本は「低成長(安定成長?)時代」のなかで「地方の時代」を迎えた。
さらに西武ライオンズが広岡達朗、森祇晶の両監督で黄金時代を築いた時期(1982〜1994年)、日本はバブル経済を謳歌したあとのバブル崩壊(1992年)後も、長野冬季五輪(1998年)やサッカー日韓共催ワールドカップを実現した。
が、失われた10年、さらに失われた20年(1992〜2012年)と呼ばれる低迷期のなかで、未曾有の高齢化社会の時代が幕を開けた……というわけだ。
その間も、それぞれの時代に合ったヒーローが出現したが、おそらく斎藤佑樹投手は「現在」という時代にふさわしいヒーローなのだろう。
爽やかで温和しい風貌の優等生。彼には、自分の息子を見るような眼をするオバサマ方や、孫を見守るような目つきの高齢者のファンが多いという。
ギラギラと輝く目は貪欲に未来を見つめ、いかにもエネルギッシュな濃い髭と胸毛が魅力だった高度成長時代のヒーロー長嶋茂雄とは、対照的なスター選手といえる。
それは斎藤投手だけの特徴ではない。今年20歳となるプロゴルファーの石川遼選手も、25歳になったばかりのフィギュアスケートの高橋大輔選手も、誰もが穏和な優等生タイプ。
もちろん「現代」という時代が彼らを産み出した。が、現在彼らはその「現代」を牽引している。
ならば、ちょいと優等生の道を外れて、ヤンチャに暴れてくれないか? そうしてくれれば世の中も少しは面白く……と思うのは、私だけだろうか? |