玉木 勝てる試合を2試合連続して逃した、と中田英寿が試合後のインタヴューでいってましたが……。
岡田 Fグループではブラジルが図抜けていて、あとの日本、クロアチア、オーストラリアの3か国は決勝進出の可能性がまったく同じ3分の1ずつあると、僕は大会が始まる前から思っていました。だから、勝てる可能性のある2つの相手に、勝てる試合をしながら、残念ながら勝てなかった、といえますね。
玉木 本当に残念な2試合でした。
岡田 試合展開としては、オーストラリア戦よりもクロアチア戦のほうが、とくにそういえると思います。というのは、クロアチアのゴールが遠かった。川口がスルナのPKを見事に止めたけど、ほかにもいっぱいあったチャンスをクロアチアはことごとくはずしてくれた。こういう試合はサッカーには時々あるもので、そういうときは、相手のゴールは絶対にといっていいほど入らないものなんです。
玉木 ハーフタイムのテレビの解説で、岡田さんは「神様が日本についてる」といわれましたが、それは別に冗談でいわれた言葉ではなかったのですね。
岡田 そう。それもサッカーの試合のひとつの特徴とでもいうか、サッカーには、往々にして起こりうる展開なんです。だから日本は1点を取ればよかった。けど、その1点が取れなかった。
玉木 後半5分に加地の見事なセンタリングがあって、柳沢が脚をボールに合わせればいいだけだったのにはずしてしまった。32分には玉田の突破もありました。が、どっちも最後はうまくヒットしなかった。
岡田 その直後、クロアチアがニコ・クラニチャルをベンチに下げたでしょ。その前までになんとか得点がほしかった。後半、彼の動きは悪かったからね。
玉木 1点が取れなかった、というのは追加点と勝ち越し点の違いがありますが、オーストラリア戦も同じでした。
岡田 またフォワード論になってしまうけれど、ストライカーというものの存在の有無が、やっぱりサッカーでは大きな差となって結果に現れます。FIFAのランキングではなく、現在の世界のサッカーを国別にグループ分けすると、A〜Dの4段階に分けることができる。Dランクはフィリピンとかインドとか、それこそW杯出場にはほど遠い国々。Cランクはシンガポールとかオマーンとか、サッカーに力を入れはじめたけれど、W杯出場には至らない国々。そしてBランクは日本や韓国、それにオーストラリアやクロアチアなど、W杯には出場しても、優勝を狙うというわけにはいかない国々。そしてAランクは、ブラジル、イングランド、アルゼンチン、イタリア、フランス…といった国々。オランダやチェコも入れてもいいかな。こうして分けたときに、AとBの違いというのは、やっぱりストライカーの違いということが言えると思いますよ。
玉木 得点をなかなか入れられないことを「決定力不足」という言葉で表すことが多いのですが、それ以上に、日本のサッカーは、ストライカーが育たないことを問題にしなければなりませんね。
岡田 以前、イングランドのユースの練習を見たとき、選手がピッチに出てきて練習前にボールをちょっと蹴ったりするとき、日本ならパスをし合ったりドリブルしたり、ボールを取り合ったりするだけだけど、彼らは、向かい合って思い切り蹴り合ってシュートを打ち合ったりするんだな。一方がキーパーになって、一方が思い切りシュートを打つ。
玉木 そういう光景は、日本では見かけませんね。
岡田 要するに、日本でサッカーの巧い選手というと、フェイントとかトラップとかの巧い選手をいう場合が多いけど、それ以上にヨーロッパや南米の連中は、キックそのものを重視してる。つまり、キックの強さもふくめて思ったところへ思い通りに思い切り蹴ることができる、ということが根本的な意識としてあるんだな。
玉木 細かいテクニックの前に、まず、強く蹴ることだと。
岡田 そう。それに日本のサッカーで子供の頃から評価されて注目されたり、上に上がってくる選手というのは、監督や先生からいわれることをきちんとこなす、真面目な連中が多い。でも、ストライカーというのは、そうじゃないんだな。ボールが足もとに来たらドーンと蹴り込むのが一番の仕事なんだから、少々練習や生活態度がいい加減でも、あいつにボールが渡ればキックが凄いから何とかしてくれる、得点につながる…、いや、それ以上に、あいつは何をするかわからない、何を考えてるかわからない、けど、何かしてくれる、というような選手が、若い頃にスポイルされないような環境が必要だと思う。そもそも、何をするかわかるようなヤツでは、キックは止められてゴールは奪えないんだから。
玉木 そういう異能者というか、天才肌というか、スーパースターという以上にトリックスターというべき異端者であるというのがストライカーにとって欠かせない要素であるなら、それが出現しないのは、日本のサッカーという以上に、日本の社会に原因がありそうですね。
岡田 そう。だから日本のサッカーが、世界のBランクからAランクを目指すには、そうとう時間がかかるかもしれないな。
玉木 サッカー界だけじゃなく、一般の社会や企業のなかからも、そういうワケのわからない連中が出てくるようになるのを待つのでなく、サッカー界が率先して社会を牽引してほしいですけどね。
岡田 何を考えてるかわからないヤツ、ワケのわからないヤツってのは、使い続けるのがけっこう難しいんだけどね(笑)。僕が久保を評価してるのは、いまいったようなワケのわからなさを持ってるからなんだけどね。インタヴューでも何しゃべってるのかわからないし(笑)。
玉木 やっぱりジーコは久保をはずさないほうがよかったかな。
岡田 いや、この前、いったでしょ。僕が監督なら、もっと早くはずしてたって。だってケガで動けないもの(苦笑)。
玉木 さて、勝てる試合を引き分けて勝ち点1の日本は、ブラジル戦を残すのみとなりました。岡田さんは、大会前から、クロアチアやオーストラリアよりもブラジルのほうがむしろ闘いやすいとおっしゃってましたが……。
岡田 ブラジルは、最前線へボールを放り込んで宮本と競り合わせるというような攻撃の仕方をしないからね。優れた個人技を中心にパスをつないだり、個人で突破を図ってくる。もちろん、総合力としての実力的にはブックメーカーの評価通り、大きな差があるけど、守備を徹底してコンパクトにする意識を強く持って、ボールを奪った瞬間とにかく速く攻める、ということをねばり強く繰り返せば、勝機も生まれると思いますよ。
玉木 サッカーは何が起こるかわからないということを信じてブラジル戦に期待しますが、クロアチア戦終了直後に、残念なことが一つありました。それは、観客席にいた日本人サポーターのなかで、なぜか大喜びしている若い女性たちがテレビの画像に映し出されたことです。クロアチアのサポーターが敗戦のように沈んでいたのに対して、勝てる試合を引き分けにしてしまった日本のサポーターが喜ぶとは、サッカーに対する一般の人々の理解がまだまだ…。
岡田 まだW杯出場も3回目だもの…。仕方ないですよ。
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