「外堀を埋め、石垣をよじ登り・・・というのでは、城攻めは不可能なことがよくわかりました」
ライブドアの堀江貴文社長がそう語ったのは、昨年11月、プロ野球の新規参入競争で楽天に敗れた直後のことだった。
――だったら、どうします? もうプロ球界への参入はあきらめますか?
そう訊くと、次のような答えが返ってきた。
「城攻めにはいろんな方法がありますからね。空から爆弾を落とすことも、パラシュートで降りることもできますから」
たしかに天守閣(親会社)を掌中にすれば、周囲の楼閣(子会社の球団)も我が物になる。そのときは新規参入の審査を受けることなど不要だ。
――日本テレビの社長にでもなる気?
「それだけは絶対にない」
と、堀江社長は笑って答えたが、そんな会話を交わしていたので、ライブドアがニッポン放送の株式を取得したと聞いても驚かなかった。
もちろん、この「買収劇」はまだ幕を開けたばかりで、どんな進展をするのか予断は許さない。が、プロ野球ファンとしては、この若き破天荒な社長の動向には大いに注目したい。
なぜなら昨年の史上初のストライキを経て二つのIT関連企業の新球団が誕生し、「プロ野球新時代」といわれながら、いっこうに「改革」の兆しが伺えないからだ。
カネのある新球団は派手に「世界一」を目指す大構想をぶちあげたり、巧みに「改革」の狼煙をあげながら、地域密着の実態は見えてこない。人気にかげりが見えだした老舗球団は、ファンサービスに躍起になっているが、プロ球界全体を、誰がどのようしようとしているのか? まったく未来像が見えてこない。
そんななかで「将来的には企業球団でなく、各地域に根ざした自立した球団に」という方針を言葉としてはっきり口にしたのは堀江社長だけなのだ。
口先だけの地域密着でなく、お大尽のタニマチ的な大盤振る舞いでもなく、親会社の利益のためのファンサービスでもなく、選手とファンと地域社会が支えるチームへの変革こそ、日本野球の未来の発展につながるものといえるはずだ。
はてさて「第二次騒動」の行方は・・・?
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この原稿に、もう少々付け加えるなら、堀江社長は「プロ野球チームを所有する理由」として、「野球が好き」とか「プロ野球を愛してる」といった理由を口にしなかったことだ。
彼は、「自分の会社を大きくするための一つの越えるべきハードル」として「プロ野球と関わる」という言い方をした。そして、そうであっても(あるいは、そうであればこそ)プロ野球ファンと自分(自社)との間に「“WIN/WIN”の関係(両者が得をする関係)を築ける」と明言した。
私(玉木)は、こういう言い方をする堀江社長のほうが、「野球が大好き」とか「愛してる」といって大盤振る舞いをするオーナーたちよりも、よほど信用できるように思う。 |