プワップワップワァァァ〜プワァァァ〜(オープニング・テーマ流れる)
「みなさん、おはようございます。今日は最初のテーマとして、いま週刊誌で騒がれている大相撲の八百長問題をとりあげます。そこでスペシャル・ゲストとして、この方にお越しいただきました」
「ハイ。ご紹介します。元前頭X枚目、現役時代はXXという四股名で人気を博し、引退後は年寄りXXを襲名。XX部屋の部屋付親方として現在も若い力士の指導に当たっておられるXX親方です」
「ええ〜今日は、現役の親方が相撲界のありのままの真実の姿を包み隠さず話してくださるということで、磨りガラスの向こうに座っていただいたうえ、お名前を伏せたことを視聴者の皆さんに御了解いただきたいと思います。では、緊急特集!大相撲は八百長で汚れているのか!爆弾発言はコマーシャルのあとで」
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「では、さっそくXX親方に、ズバリお訊きしたいと思います。相撲界に八百長は存在しているのでしょうか?」
「……八百長は……ないですな……」
「えっ!? いま、なんと?」
「我々大相撲の勝負に、八百長などありませんな」
「ちょ、ちょっと、待ってください(おい、打ち合わせと違うぞ)。あれだけ週刊誌がはっきりと八百長の存在を指摘して、過去には元力士が顔も名前も出して証言したこともあり、そこへ親方が伏せ字と磨りガラスに隠れて出てきたというのに、そのお答えはないでしょう」
「わけのわからん質問ですな。でも、お答えしましょう。八百長というのは、その行為によって、誰かが大儲けをしたり、誰かが大損をしたときに非難されるべきものですな。競馬や競輪ならともかく、大相撲の取り組みで、そんな非難を受ける結果がありましたかな?」
「それはおかしい!詭弁ですよ」
「あっ。レギュラー・コメンテイターの弁護士の勝又正義さん、どうぞどうぞ、どんどん疑問をぶつけてください」
「多くのファンが、大相撲は真剣勝負だと思ってみてるのですよ。それが出来レースだとわかったらファンに対する裏切り……」
「待った!ちょっと待った。相撲の場合は、出来レースではなく、出来山(デキヤマ)と言ってください」
「?*!*!*?……まぁ、いいか……。真剣勝負だと信じていたものが、じつは出来山だったら、ファンに対する裏切り行為じゃないですか!」
「そうとも限らないでしょう」
「…………?」
「かつて兄弟で優勝決定戦となったことがありましたな」
「貴乃花と若乃花の対決ですね」
「……兄弟対決の優勝決定戦で、強い弟が弱い兄に負けた。それを誰も非難しませんな」
「あの兄弟対決は出来山だったと?」
「いいや。出来山じゃない。盆中だったかもしれない」
「ボンナカ……? ナカボンじゃないんですか?」
「中盆は盆中をひっくり返した隠語で、盆中を取り次ぐ力士のことを言いますな」
「ボンナカ……」
「一方の力士が負けてやることです」
「それって片八百長じゃないですか」
「それは言葉が悪い。言葉が違う」
「だったら若乃花と貴乃花の兄弟対決は盆中だったと?」
「知りませんな」
「知りませんって、いま、そう言ったじゃないですか」
「言ってませんな。かもしれないと言っただけですな」
「本当のところは、どうだったんでしょう?」
「野暮を言ってはいけません。そんなこと、どうでもいいことです。その相撲内容も、結果も、誰も非難しなかった。むしろ当時は、誰もがその結果を喜びましたな。それでいいでしょう」
「それが今回の八百長疑惑とどう関係あるんですか?」
「横綱の存在は、血を分け合った兄よりも特別です」
「それは、どういう意味で……?」
「大相撲は格闘技の一種としてのスポーツでもありますが、同時に興業でもあり神事でもあるわけですな。横綱が不在だったり休んでばかりいるようでは観客も不満を抱きますわな。興業としての人気も下火になる。だからジャイアント馬場やアントニオ猪木も一種の横綱的存在だったわけですな」
「ということは大相撲もプロレスと同じだと……?」
「まあまあ、早まりますな。大相撲がプロレスと同じなわけがない。大相撲はスポーツでもあり興業でもあると同時に、長い日本の伝統文化を担う神事でもあるわけで、その神事の頂点に立つ横綱は、やはり、そうそう負けちゃならんわけですな」
「だからといって、八百長をしてもいいとはいえないでしょう」
「まあまあまあまあ。だから神事の頂点に立つ横綱には品格も求められ、心技体を兼ね備えた強い力士しかなれないわけですな。また、横綱になった力士は、常に精進し、人格を磨き、品格を備え、稽古に励み、若い力士に胸を貸し、番付の下の者から尊敬される存在でなければなりませんわな。言ってみれば、横綱は下位の力士が気負けするようなオーラを出すほどでなければいかんわけですな」
「キマケ?」
「位負けと言えばわかっていただけますかな。下位の力士は、端から横綱に勝つのは無理だとわかる。そこで無理をして怪我をするような挑戦は避ける。その結果、横綱は圧倒的に堂々と美しく勝つ」
「それって片八百長じゃないですか!」
「違いますな。横綱の“気”で勝つわけです。“気”で勝った横綱は、“気”で負けた相手力士をもっと強くしてやろうと可愛がり、胸を貸してやり、稽古をつけてやり、鍛えてやり、たまには御馳走を奢ってやることも、小遣いをわたしてやることもある」
「それって八百長の御礼じゃないの?」
「貴方は無粋な人ですな。阿吽の呼吸というのが、わかっておられない」
「しかし週刊誌によれば、あるいは過去に八百長を告発した力士の証言によれば、そんな綺麗事ではなく、勝ち星を買いあさっているわけでしょう。おまけに横綱だけではなく、そういう行為が下位の力士にもはびこってると……」
「私はそのような事実は知りません。それが事実であるとすれば情けないことですな。見苦しいことです。横綱を頂点とした美しいヒエラルキーというか、日本の伝統文化の崩壊といえますな」
「ええええ〜と、ちょっと待ってください。親方のお話を伺っていますと、大相撲には、一種の阿吽の呼吸による談合行為のようなものが存在していると、そして、週刊誌によれば、その談合行為が制度化して現在頻発するようになったと、そういうことになるのでしょうか」
「談合!そういう人聞きの悪い言葉は使ってほしくありませんな」
「だったら、どう言えばいいんでしょう?」
「和を以て貴しと為す」
「……なるほど……。だったら、これまでも『和を以て貴し』とする行為が為されてきたというわけですか?」
「そんなことはありません。先ほども言いましたが、相撲は、スポーツ、興業、神事の三本柱によって美しく成り立ってきたわけで、時代によってはスポーツの要素が強くなったり、興業の要素が強くなったり、神事の要素が強くなったりして2千年の歴史を重ねてきました。スポーツの要素が強くなったときは、怪我をする力士が大勢出て問題になりましたな……」
「だったら、現在はどんな時代といえるわけですか?」
「ワルを以て貴しと為す……」
「出ました!最後に爆弾発言!だったら、もう一度お訊きします。そのワルが中心の現在の大相撲には、八百長が存在しているのですね」
「いいえ。八百長は存在しません」
「しかしね、親方。弁護士として言いますが、いまの話の内容が裁判で語られれば、裁判所はその行為を八百長と認定しますよ」
「無粋なことですな。馬鹿なことになったもんです。相撲界には八百長という言葉が存在しない。そもそも八百長という言葉が存在しないのに、どうして八百長が存在するといえるのか。日本の伝統文化は、日本人の心は……」
「ええ〜、たいへん残念ですが、時間がきてしまいましたので、とりあえずコマーシャルを。次の話題は、ロサンジェルスで自殺した三浦和義さんにまつわる新たな……」
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「最後の言葉が消えちゃったなあ。あ、親方、親方。ちょっと待ってください。打ち合わせでは、八百長という言葉も使う、実例もあげるとおっしゃってたのに、ずいぶん話の中身が柔らかくなりましたね」
「ワシは、出来山は嫌いなんですわ……」
「…………」
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