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先月号の本欄では、夏の甲子園大会で発覚した広島県代表・広陵高校で発覚した暴力事件を取り上げ、高校球界でそのような事件が絶えないのは、大会を主催する朝日新聞社と日本高等学校野球連盟(高野連)の責任だと、非難した。
が、それに続いて、日本の野球界には、また新たな事件が勃発した。
それは、来春3月に開催が予定されているWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)全47試合の独占放映権を、米動画配信王手の「」Netflix(ネットフリックス)」が獲得。
日本のテレビ放送では、地上波も衛星放送も、前回(03年)見られたような大谷翔平選手などの日本人選手の活躍や日本チームの優勝シーンは、現状では報道ニュースなどでしか見られなくなったのだ。
この2つの"事件"は、一見関係がないと思う人が多いかもしれない。が、そこには重大な共通点がある。
それは、どちらも、日本の伝統的なオールドメディア(朝日新聞と読売新聞)が、ニューメディア(SNSやNetflix)に完敗を喫したということだ。
広陵高校の暴力事件は、夏の高校野球の主催者である朝日新聞社と高野連が既に暴力の実行者への処分は済み、事件の処理は終わったものと判断。広陵高の大会への出場を認めていた。
が、その後SNSで、事件は未解決のうえ、さらに他の暴力事件の存在等様々な問題が提起され、主催者はそれらの声を無視できなくなり、広陵高校も1回戦に勝った後、大会からの出場辞退を決めたのだった。
そしてWBC全試合の映像放送がネットフリックスの独占になったのも、読売新聞というオールドメディアの関与が大きいと言わざるを得ないのだ。
が、これは読売新聞社とネットフリックスの問題と言う以前に、読売新聞社とNPB(日本野球機構=プロ野球)の問題と言うべきだろう。
1936(昭和11)年、日本職業野球連盟(現在のプロ野球)が誕生したとき、野球(スポーツ)は公共の文化だから、その運営は私企業ではなく公共企業が相応しいと考えられ、球団経営は、新聞社、鉄道、映画という当時"御三家"と呼ばれた3種類の"公共企業"が担った。
今では食品、通信、ITなどの私企業も加わるようになったが、創立時から全球団の中心としてプロ球界全体を牽引してきたのは、"御三家"のうちの読売新聞社(読売ジャイアンツ=巨人)だった。
しかも読売は「伝統の巨人軍が勝たなければプロ野球は廃れる」と主張。江川卓投手獲得のための"空白の一日事件"(78年)や、"1リーグ制移行画策事件"(02年)など、自分勝手な行動に走ることも多く、それに反対する球団には「新リーグを作って参加させない」と恫喝を加えたりもしてきた。
その結果、メジャーリーグ(MLB)のようにリーグ全体が発展する戦略を打ち出すことなく、かつてロサンゼルス・ドジャースのオーナー補佐だったアイク生原氏は、「MLBの人間は誰もが主語をWe(我々)で話し、メジャー全体で日本のプロ野球と関係を持とうとする。が、日本のプロ野球から来る人は常に主語がI(私)で、自分の球団の利益しか考えてない」と語ったことがあった。
そんなNPBの構造的欠陥は、残念ながら現在も続いている。
MLBを代表する人物は、10代目のコミッショナーのロブ・マンフレッド氏で、彼は最高執行責任者(COO)としてMLBの事業を取り仕切っている。彼は94〜5年に起きたMLB選手会の長期ストライキのときにはオーナー側の弁護士を務め、その後MLBの執行副社長からCOO、そしてコミッショナーとなり、申告敬遠制度、投手の投球時間制限、各塁のベースの拡大等、様々なルール改革に手を付けた。
一方、日本(NPB)のコミッショナーは関西電力会長、経団連会長の榊原定征氏で、野球以外でこれほどの要職に就いている人物が、プロ野球の運営に深く関われるとも思えず、そもそもNPBのコミッショナーは、名誉職でしかないと思っている人が多いだろう。
またMLBのように、プロ球界(セ・パ両リーグ)全体で(放映権の管理などの)ビジネスを展開しているわけでなく、現在も読売新聞社(読売グループ)が一球団(ジャイアンツ)のオーナーとしてプロ球界全体を牽引しているのだ。
パ・リーグにはリーグ全体で映像配信を行う「パーソナル・パ・リーグTV」が存在するが、日本テレビと関係が深い読売ジャイアンツの存在するセ・リーグには、そのような"リーグ・ビジネス"を立ち上げようという声は出ない。
「巨人=読売新聞社=日本テレビ」が中心になって運営されてきた日本のプロ野球界は、WBCについても、これまでは、日本で行われる一次リーグ主催権を読売新聞社がWBCI(ワールド・ベースボール・クラシック・インコーポレーション)から譲り受け、日本代表を中心とした試合の放映・配信も、これまあでは読売を通じて日本のテレビ各局に付与されてきた。
が、今年、WBCIはWBC全47試合の放映権をネットフリックスに売却。その価格は公表されないが、前回の放映権料総額30億円の「5倍の150億円」(「週刊新潮」9月11日号)とも言われている。
このような高額の放映権ビジネスは、今やVOD(ビデオ・オン・デマンド=動画配信会社)各社の独壇場で、WBCだけでなく、「DAZN」に全試合の放映権を11年契約2395億円で売却したJリーグや、1試合のファイトマネーが10億円とも言われる井上尚弥の世界タイトルマッチの放映権を獲得したNTTドコモの「Lemino」など、放映権料の最高契約額の上限が1億円程度のオールド・メディア(テレビ)では太刀打ちできない状況になってしまった。
そうして世界のスポーツ市場の規模は、現在73兆円程度なのが、10年後には129兆円を越えるとの試算もある(ビジネス・リサーチ・カンパニー)。
日本のスポーツ市場の規模は、現在9兆円程度でしかないが、日本で最も人気のある野球というスポーツビジネスのコンテンツを、オールドメデイア(新聞やテレビ)に支配させていては、日本の経済成長にも悪影響を及ぼすのでは?
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