人が歴史を創るのか?
歴史が人を産み出すのか?
それは、シーザー、ナポレオン、信長、秀吉、家康以来のテーマといえる。
が、私は「人が歴史を創る」と断定できると思っている。とりわけスポーツの世界では…。
本書は、第二次大戦後、日本の野球界の歴史を半世紀にも渡って牽引してきたスーパースター長嶋茂雄の「自伝」である。
《自伝を書くとフィクション(創作)だと言われ、フィクション(小説)を書けば自伝と言われる》とは作家フィリップ・ロスの名言だが、ミスタープロ野球の自伝には「創作臭」など微塵もない。
野球が大好きな人物が、ひたすら野球に打ち込む姿が滲み出ている。
ただし書かれていない部分は多い。立大から巨人入団時の詳細な事情、最初の監督解任時の軋轢、江川事件…等々、その折々で様々に錯綜した事情があったはずだが《野球という人生》を生きた人物は、それらを割愛した。
それは当然のことで、ユニフォームを着てグラウンドを駈ける姿こそ美しかった人物には、プレイ以外のことは重要でないのだ。
もっとも、今後の日本の野球人が同じ考えのままでは、日本野球の発展はあるまい。
おそらく日本で最初に《大リーグでプレイしたい》と思ったスーパースターが、今は《日米間で、自由に選手がピックアップされ、草刈り場になっていること》に《一抹の寂しさ》を感じている。
それは一つの時代を生きた人物の述懐であり、未来の日本野球は、そんな感傷は抜きにして、新たな時代を切り拓き、築く以外ない。
自分は《アウトロー的》と書きつつ、グラウンド外では組織の壁を破れなかったようにも見えるミスタープロ野球は、何より《ファンの方に楽しんでもらわなくてはいけない》と考え、実践もしてきた。
その姿勢は見事だが、そこには「ファン」でなく「サポーター」という発想はない。そんなことを考えつつ本書を読めば、前時代の不世出の野球人が、さらに愛しく思えてくる一冊である。
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