コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-09-19

この原稿は、平凡社の『世界大百科事典 百科年間1985年版』に寄稿したものです。今シーズンのタイガースの優勝と比較してみてください。20年前は、ホンマにアホやった・・・いや、アホみたいにおもろかったでっせ。

ナニワの乱痴気

 阪神タイガース21年ぶりの優勝。そして日本シリーズ初制覇は、単にプロ野球史に残る事件というにとどまらず、<タイガース・フィーバー>と呼ばれる社会現象を引き起こした。
 1985年のシーズン、開幕直後から首位戦線に躍り出たタイガースに対してファンが殺到。主催試合の観客動員は前年の192万人(主催球団発表=以下同)を35パーセントも上まわる球団史上最高の260万人を記録した。これは前年比6パーセント減となった巨人の280万人に迫る数字である(主催球団発表の水増しされた数字ではなく実数では、阪神のほうが巨人を軽く凌駕していたのだが)。
 そのうえ日本シリーズ(対西武戦6試合)でも従来の記録(1981年巨人対日本ハムの22万8千人)を大きく上まわる25万2千人の観客を動員した。

 しかも彼ら“トラキチ”と呼ばれるタイガース・ファンは、他球団とは比較にならないほどの熱狂ぶりを発揮し、優勝の瞬間には、梅田、心斎橋、難波といった大阪の繁華街が合計50万人を超す群衆であふれ、道路のうえでビールのかけ合いを演じたり、道頓堀川に飛び込むなど、機動隊まで出動する町をあげての乱痴気騒ぎ(フィーバー)となった。

 このトラキチの熱狂ぶりに目をつけた企業が、ペナントレース終盤からタイガース・マークの入ったキャラクター商品を続々と発売。自動車、自転車、テレビ、ビデオデッキ、ビデオテープ、ラジオ、カメラ、電卓、ギター、シンセサイザー、電話機、テレホンカード、布団、毛布、枕、ティッシュペーパー、ポリバケツ、石鹸、シャンプー、食器、インスタントラーメン、醤油、かまぼこ、饅頭、焼き肉のたれ、コーヒー、ジュース、ビール、ウィスキー、日本酒、そして、米、さらに女性用パンティ・・・と、500種類を超す<タイガース印>の商品は、それだけで日常生活が可能といわれるほどの多種におよび、すべての商品が品切れになるほどの好調な売れ行きを見せた。

 阪神デパートの優勝バーゲンセールも、1日約40万人の客が押しかけ、10億円の売上げを記録。他の流通産業、サービス業も、関西地方では軒並み業績をアップさせ、住友信託銀行調査部の調査によると、<タイガースの優勝フィーバーにより家計が追加的に支出した消費は399億円の生産誘発効果>を生みだし、これが<京阪神地区の経済成長率を0.1パーセント引き上げた>という。

 しかし、なぜタイガースの優勝が、これほどの社会現象を引き起こしたのだろうか。
 巨人と並ぶ名門球団でありながら、20年間も優勝から見放され、<今世紀中の優勝は無理>とか<大阪の恥>とまでいわれたチームが、開幕前の所詮Bクラスという大方の予想を覆して優勝、その奇蹟ともいえる出来事に、長年鬱屈していたファンの喜びが一気に爆発した、というのが、いちばん単純な考え方だ。

 また社会評論家たちは、昭和30年代後半の繊維不況以来、長期間低迷しつづける大阪の経済状況を指摘し、加えて、最近の<かいじん二十一面相事件><山口組対一和会の暴力団抗争><豊田商事永野会長惨殺>・・・と、暗いニュースが続発する関西で、タイガースの優勝が関西人に唯一明るい希望をもたらした、と分析した。それも、もちろん間違いではないだろう。が、それ以上に、タイガースの優勝の仕方そのものに注目するべきではないだろうか。

 今シーズンのタイガースは、三冠王を獲得したバースをはじめ、掛布、岡田、真弓という4人の「3割30ホーマー打者」を中心に、合計219本のホームラン(セ・リーグ新記録)を放ち、弱体といわれた投手陣を補って余りあるパワーで豪快に打ち勝った。これを長嶋茂雄氏は、「タイガースの優勝は時代の要求」という言葉で表現し、川上監督率いるV9巨人以来の管理野球(選手個々の活躍よりも監督=マネージャーの管理能力=マネージメントが注目される野球)に対するアンチテーゼとして、タイガースの野球を絶賛した。

 この長嶋氏の言葉は、野球に限らず、<タイガース・フィーバー>という社会現象にも当てはめることができるのではないだろうか。
 社会全体が高度な管理体制のもとで、管理社会として機能している現代社会において、大勢のひとびとが<アンチ管理>を旗印としたタイガースのやり方に共感を覚え、その優勝を契機として生み出された「祭り(非日常)の時空間」が<タイガース・フィーバー>だった、というわけだ。

 もっとも、昨今早くもマスコミを賑わせている<昭和60年代はタイガースの時代>といった表現、すなわち<個性派時代の幕開け><異能者時代の到来>といった言葉は、まったく何の意味も持たない、ただマスコミの話題づくりにすぎないものと断言していいだろう。

 ますます管理の強化が進行する現代社会全体の動きを、たかがひとつの野球チームの手によって、異なる方向へと動かせるわけがない。いや、管理野球が主流である日本のプロ野球にあって、勝敗は選手の調子次第というタイガースの野球が、この先一時代を画するような勝利(何度かの連続優勝)を記録することもとうてい思えない。
 ただ、それだけにタイガースの人気は、今後いっそう上昇するだろうし、タイガースが突然のごとく優勝するたびに、乱痴気騒ぎは繰り返されることになるだろう。

*****

  この原稿に書いたことは一昨年の優勝までは当てはまったと思いますが、今年の優勝には当てはまらず、「時代が変わった」ようにも思われます。それが、どのように「変わった」かについては『スポーツ・ヤァ!』(角川書店・刊)の最新号に書きましたので、そちらをお読みください。

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