小生の感覚が鈍かっただけのことかもしれないが、数週間前から(いや数ヶ月前からか?)、NHKの『7時のニュース』を見ていて気になることがあった。
それは、ニュース報道からスポーツニュースと天気予報へと変わるときに、短い文章が画面に出ることだ。
最初のうちは、あまりにも短時間だったので、文章を読めなかったが、何度か見るうちに、その文章が読めるようになった。
《きょうもあすもあなたと一緒に》
何だこれは? 報道の要(かなめ)たるニュース番組に、これは必要な文章か? あまりに視聴者に媚びた文章ではないか!?
最近、番組の終わりにアナウンサーが、「今日もご覧いただきありがとございました」とお辞儀をして挨拶したことを見て仰天したが、NHKは受信機を所有している視聴者から強制的に視聴料を徴収することを国によって法律で公認され、公共の所有物である電波を使用することを認められ、一般的に「公共放送と呼ばれてる放送局である。
ならば《きょうもあすもあなたと一緒に》などとわざわざ断らなくても、視聴料を支払っている我々(視聴者=あなた)の側に立って、我々(あなた)と一緒に(ニュースやその他の)番組作りを行うのは、あまりにも当然のことと言えるだろう。
なのに、それをわざわざ媚びた口調の文章で断らなければならないというのは、何か後ろめたいことでもあるのかと勘ぐりたくもなる。
しかもその文章(文字)は、あまりにも早く消えてなくなる。何日間か必死になって目を凝らして集中しないと読めない速さで消え去るものだから、NHKとしては、薬の能書きや生命保険や火災保険の契約書と同様、誰も詳しくは読まないだろうことを見越して、わざと小さい文字で素早く見せたいのかもしれない。
そして何か問題が起きたときは、我々NHKは、自分たちの基本姿勢を番組内でキチンと断ってますよと言い訳できるよう配慮しているのかと邪推したくもなる。
しかも薬や保険の能書きは印刷物として残るが、テレビ番組は録画しないと残らず、ユース番組を録画する人も極めて少数であることを思うと、この文章《きょうもあすもあなたと一緒に》は、まったく意味のない文章とも思える。
まったく意味がないならば、何も小生が目くじら立てて問題に必要するはないではないかと言われそうだが、これはやはり大問題で、何が問題かと言うと《あなたと一緒》という媚びた姿勢が問題なのだ。
NHKの『7時のニュース』のホームページを見ると、《きょうもあすもあなたと一緒に》のあとに、《日本、そして世界のこれからを考える確かな情報を届けます》と続く。
このNHK『7時のニュース』の基本方針に則って考えると、ドジャースの大谷翔平がホームラン50本50盗塁(フィフティ・フィフティ)の記録に近づいたときに、「今日は○号を打ちました」「今日は盗塁をしました」「今日はノーヒットでした」といちいち報じることが《日本、そして世界のこれからを考える情報》とは思えない。
大谷が50本塁打50盗塁のメジャーで前人未踏の大記録を達成したときには『7時のニュース』で報道する価値があるだろうが、そのときは、その価値が《日本、そして世界のこれからを考える情報》としてどのような価値を持つのか、その重要性の情報(インテリジェンス)とともに報じれば良い。
が、記録が達成される前は、単なるエンターテインメントとしての「スポーツ・ネタ(情報=インフォメーション)」にすぎないだろう。
大谷以外の日本人選手のメジャーでの活躍も、それが《日本、そして世界のこれからを考える情報》と考えられるときは、『7時のニュース』の報道姿勢に則って報道されるべきだろうが、そうでないときは単なる「スポーツ(エンタメ)ネタ」に過ぎない。
100年ぶりにパリ五輪が開催されたことや、パリで初のパラリンピックが開催されたことは、報道価値のあるインテリジェンスと言えるだろうが、日本人選手にメダル獲得や活躍は、大相撲の日々の勝敗結果、プロ野球セパ両リーグの試合結果と同様、エンタメのインフォメーションに過ぎないだろう。
きちんとした年代はわからないが、かつてはNHKでも他の放送局でも、「スポーツ・ニュース」や「天気予報」という短時間の番組が、ニュースとは別に独立して存在していたように記憶している。
いまも『すぽると!』や『サンデースポーツ』など、スポーツのニュースを他のニュース番組とは別に、独立して伝える「スポーツ・ニュース番組」は存在する。
が、今日ではNHKも、また他のテレビ放送局も、スポーツ・ニュースや天気予報をニュース番組やニュース・ショウ(ワイドショウ)番組の一コーナーに吸収してしまい、インテリジェンスとインフォメーションの区別が曖昧になり、報道番組と娯楽番組の区別も分け難くなり、すべてのテレビ番組が視聴率最優先のバラエティ番組化するなかで、スポーツはほとんど完全にスポーツ・エンターテインメント番組と化し、確かな「スポーツ報道番組」は息も絶え絶えの情況に陥っている。
そんななかでわずかに、7月7日に放送された『NHKスペシャル/戦禍のオリンピック』、8月31日に放送されたTBSの『報道特集/炎天下のスポーツと熱中症』、そして小生もコメンテイターで出演した9月4日放送のBSフジの『プライムニュース/オリンピックと戦争と平和』が、私の知る限りテレビがスポーツ(高校野球やオリンピック)を、エンタメではなく報道として真っ当に取り上げた番組だった。
スポーツ番組目白押しのなかで、わずかに3本しか紹介できないのは情けない限りで、これからも、メジャーに選手を奪われるばかりの問題は無視したプロ野球の優勝争いやメジャーのプレイオフ、関東の大学だけによる不平等な地方大会に過ぎない箱根駅伝等をテレビは大騒ぎするのだろう。
が、かくもメディアがスポーツをエンタメとしてばかり扱っていると、日本のスポーツ界ばかりか、日本経済をも大きく傷つけることになるはずだ。
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