浅田真央というフィギュア・スケーターは、実に素晴らしいスポーツマン……いや、スポーツウーマン……いや、スポーツ・レディだと思う−−と、改めて言いたくなる。
誰もが御存知のように彼女は、今年2月に行われたソチ冬季オリンピックのショート・プログラムで大失敗の演技をしてしまい、16位と出遅れてしまった。
しかも、その11日前に行われた団体戦でもトリプル・アクセルのジャンプに失敗し、2020年東京五輪組織委員会会長の元総理大臣から、「彼女は大事なところで必ず転ぶ」と、事実誤認の言われなき非難まで浴びてしまった。
こんな状態に陥れば、どんなスポーツ選手でも、普通は精神的に落ち込んでしまい、いい結果は残せない。残せるはずがないし、残せなくても当然だろう。
ところが浅田真央さんは、フリーの演技でコンビネーションも別種類と数えると、8種類の3回転ジャンプを成功させるなど(審判は、回転不足を取ったりしたが、我々ファンには、ドーデモイイコトですよね(笑))、本当に見事な演技をやってのけ、日本中のフィギュア・スケート・ファンだけでなく、全国民を(と言いたくなるくらい多くの人々を)感動の渦に巻き込んだ。
(文字を扱い文章を書くことを生業としている人間が、「感動」だの「感動の渦」だのと、マスメディアが使い古した言葉を軽々しく使うべきではないが、浅田真央さんには、そのような言葉を心底から素直に使いたくなるし、使っても言葉に負けるようなことはないだろう。)
逆境に挫けず必死になって健気に頑張った姿と、ここまで美しい完成されたパフォーマンスを見せられては、もう、メダルも順位も、採点の点数も関係ない。テレビCMではないが、我々を勇気づけてくれるほど頑張ってくれた彼女に心からの感謝の拍手を贈り、敬意を表すだけだ。
しかも浅田真央さんは、続く3月に埼玉で行われた世界選手権に出場し、ショート・プログラム史上最高得点(78・66)の演技を見せ、鮮やかにソチ五輪での失敗を挽回。フリーと合わせて216・66の自己ベストの点数で、見事に世界一に輝いた。
メダルも順位も採点も関係ない……と書いた直後に、世界一の金メダルや高得点を称えるのは明らかに矛盾である。が、メダルも順位も得点も超越するほどの素晴らしい演技を見せてくれた浅田真央さんが、世界一の金メダルを獲得するのも、また当然のこととして称えたいし、その当然のことをやってのけた彼女の競技者としての技量と人間としての精神力を、改めて称賛したくなる。
しかし浅田真央さんだけでなく、男子の羽生結弦選手の今季3冠(グランプリ・ファイナル、オリンピック、世界選手権)優勝も含め、日本のフィギュア・スケートは、いまや世界でトップ・レベルの実力と実績を兼ね備えたと断言できそうだ。
もちろんローマは一日にしてならず。1991年、長野冬季五輪(98年)開催が決定したのをきっかけに、日本スケート連盟は「第2の伊藤みどり(89年世界選手権優勝・92年アルベールビル五輪2位)を育てよう!」をスローガンに、8〜12歳の有望なスケーターを長野県に集め、有望新人合宿(通称・野辺山合宿)を開始。
そこから荒川静香(トリノ五輪金)、安藤美姫、村主章枝、高橋大輔(バンクーバー五輪銅)、そして浅田真央を初め、織田信成、小塚崇彦などの多くの名選手が育ったのだ。
現在ジュニア(15歳以下)にも好選手が大勢育ってきているらしい。が、ただ「強い」とか「勝つ」だけでなく、浅田真央さんのように、世界中のファンから愛され、尊敬されるようなアスリートに育ってほしいものだ。
そして真央さんは、しばらくの間ゆっくりと休んで、じっくりと将来のことを考えてほしい。引退しても、復活しても、私たちファンは、貴方の決めたことを応援しますから。
今、世間の話題は、サッカー・ワールドカップ・ブラジル大会に移っているが、今年最高の感動の記録として、改めて浅田真央さんのことを思い出しておくことにする。 |