コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-05-30

この原稿は『スポーツ・ヤァ!』116号に寄稿したものです。仙台へ行き東北楽天ゴールデンイーグルスを取材したのは4月22日。マーティ・キーナートGMの「降格」が発表される前日のことでした。

失われた「野球」を求めて
――「楽天野球団」は「新球団」と呼べるのか?

 「もうちょっと強かったら、客も入るんでしょうけどねえ・・・。弱すぎるから・・・」
 仙台市内で20年近くタクシーの運転手をしているという初老の男性が溜息混じりに呟いた。駅前の老舗の牛タン専門店でバイトをしている学生も、異口同音の言葉を口にした。
 「俺たちの間では、あまり話題になってないですよ。勝てば違うんだろうけど・・・」

――でも、せっかく地元に生まれたチームなんだから、勝てないときこそみんなで応援を・・・。
 わたしは喉まで出かかった反論を呑み込んだ。地元の人々には、別に何の「責任」もないのだ。
 昨年の「球界再編騒動」のなかから誕生した新球団『東北楽天ゴールデンイーグルス』は、昨秋から今春の開幕までスポーツ紙の一面を何度も飾り、メディアの話題を独占した。しかし2万3千人収容のフルキャストスタジアム宮城は満員にならない。

 4月1日ホームでの開幕となった対西武ライオンズ戦でも観客数は17,236人。わたしが初めて訪れた22日の対ロッテ・マリーンズ戦のナイターは、陸奥(みちのく)の遅い春の寒さも災いして8,889人。改装なった新球場のクリムゾン・レッドの空席ばかりが目立った。それは赤字に苦しみ合併に走ったチームの球場と同じ光景であり、交流戦の対巨人戦や阪神戦だけが満員というのでは、「古い球団」と何ら変わりがない。

 TV中継された地元での開幕戦は、22.4%と、巨人戦の全国中継(5.5%)を上回る驚異的な視聴率を記録した。が、メジャーリーグの新球団ワシントン・ナショナルズが連日超満員なのに、日本の「話題の新球団」は、客足が伸びていない。

 「そうですね。ちょっと寂しいかな。ここは客席とグラウンドが近くて、観客と選手が一体になれるいい球場ですから、もう少しお客さんに来てほしい。とくに子供たちでいっぱいになってほしいですよ」
 試合前のベンチで、田尾監督も残念そうに首を振りながらそういった。

――勝てば、お客さんは来ますよ。
 「そうだよね」
 指揮官は、人なつっこい笑顔を見せる。
 「たしかに、いまは負けすぎてます。いくら戦力的に弱くても、確実に勝てるゲームを3〜4試合落としてる。ほんとうなら最低でも5位のオリックスと差がないくらいの成績は残せるはずなのに・・・。ネット裏で見ていたときは、オリックスや日本ハムは弱くて簡単に勝てるチームだなあ・・・と思ってたけど、いまは強く感じられてしょうがないですよ(苦笑)」

――接戦を落としてしまう原因は?
 「やっぱり打てないことですね。オープン戦はまずまずの成績だった(8勝9敗1分)けど、すべてがビジターの試合になってしまったので、バッターの特打ちができなかった。だから誰もが打ち込み不足のまま開幕を迎えて、最近やっとバットが振れてきたと思ったら、今度は投手陣が・・・」

 そして「古い球団」と同様、新球団にも「内紛」が報じられた。4月17日の対ファイターズ戦に敗れ、今季4度目の3連敗を喫したあと、「若くて将来の可能性ある選手を使うべき」と、三木谷オーナーが田尾采配を批判した。
 「僕は何とも思ってないし、三木谷さんとも電話で話したから、別に問題はないですよ。でも、若手選手を使えといわれてもねぇ・・・。使える選手がいるなら、いわれなくても使ってますから。じっさい一場も使ってるし・・・」

 苦笑いではあっても、田尾監督の顔は終始明るかった。それは彼自身の性格にもよるのだろうが、これだけ敗戦を重ねても、「プロ野球の監督という仕事は、すごく面白いですよ」と笑顔でいう。
 「いままで大勢の監督から、ツライ、シンドイ、という言葉を何度も聞かされたけど、それは、こんなに面白い仕事を他人にやらせたくなかったからじゃないのかなあと思えるほど、監督の仕事は面白いですよ」

 戦略を立て、戦術を考え、選手起用を工夫し、作戦を指示する。なんとか勝利を掴み取ろうと頭のなかの電気信号を走らせる。それは、楽しい作業だという。
 「やっぱり野球って、凄く面白いんですよ。勝てばもっと面白くて、もっと楽しくなるんでしょうけど、なんとかがんばってますから、この面白い野球を、もっと大勢の人に見に来てほしいですよ」

 100敗ペースの敗戦の連続。しかし、最近の流行語を使うなら、それは「想定内」のことといえる。既成球団から新球団に選手を譲るエクスパンション・ドラフトが実行されずに終わった昨秋の時点で、多くの評論家やファンが口にしたことでもあった。
 他球団が不要と判断したベテラン選手たちの奮起と復活を期待する声もなくはなかったが、「プロ野球改革元年」ともいわれる年に、半世紀ぶりに誕生した新球団に対して高まった期待は、そのような「奇蹟の勝利」ではなかったはずだ。

 スポーツとは勝利を目指して全力を傾注するもの。とはいえ、12のチームが集まってのリーグ戦となると、勝つチームも出れば負けるチームも出る。そんなスポーツの常識を無視して、たった一つのチームだけが勝利と人気を独占しようとしつづけてきたプロ野球のあり方に、ファンが「否」の声をぶつけた。それが昨年の「騒動」の本質だった。
 それに対して、「地域密着」や「ファンサービス」という声が高まるなかで誕生したのが「新球団」だったはずだ。

 しかし――
 フルキャスト・スタジアム宮城へ足を運んだとき、どうにも奇妙な違和感が心のなかに広がるのを押さえることができなかった。
 選手を間近に見ることのできるフィールドシートは、金網と鉄パイプが目障りで、しかも入場料は外野に近い席にもかかわらず、ネット裏(5千円)よりも高い6千円。他球場にはないネット裏の「砂かぶり席」は、すべてスポンサー席で一般の観客は(コネがないと)入れない。

 外野の芝生席はピクニック気分で野球見物ができ、デイゲームや夏のナイターには家族連れにとって最高の席と思えたが、弁当や飲み物の持ち込みは禁止。愛知万博では小泉首相の鶴の一声で同様の方針が覆されたが、誰の声なら聞いてもらえるのか?
 スタジアム内全面禁煙は、いかにも「新時代の新球団」らしい方針だが、喫煙者は半券を手にスタジアムの外へ出て、テレビもない道路の一角でくつろぐしかない。喫煙者は野球を見にくるな、ということか?

 メジャーの球場のように、球音を楽しむためトランペットや鳴り物禁止というのは、悪いことではないかもしれない。が、観客が両手に持ったメガホンを打ち鳴らす音はけっして小さくない。しかも声援をリードするエレクトーンの演奏がなく、イーグルスの攻撃のときは、断じて美しいとはいえない乱れた音がボコボコと響き続ける。
 ときおりスコアボードのスクリーンに犬鷲のキャラクターが登場し、両手に持った扇子を打ち振るが、それが三三七拍子。思わず吹き出すほどの古臭さを感じた。

 しかも、イニングの合間にスクリーンに映されるCMの音はやたらと大きく、画面にマーティ・キーナートGMが現れ、「球場へはグラヴを持ってきましょう」と呼びかけたのは、「グラヴは楽天市場でも買えます」というコマーシャルでもあった。
 「去年の秋から球団も球場も突貫工事で、ようやくここまで漕ぎ着けたんだから、まだまだ直すところがいっぱいあるのはわかってますよ。長い目で見てくださいよ」
 マーティ・キーナートGMは、そういいながら、わたしの指摘をメモにとった。

 たしかに新球団は、まだスタートを切ったばかりなのだ。が、目の前に広がる人工芝を見つめながら、球場に張ってあるポスターになぜか「東北」の二文字の存在しなかったことが思い出され、様々なところで心に引っかかった奇妙な違和感は、積もり積もって澱(おり)のように体のなかに溜まった。

 楽天野球団は多くのスポンサー集めと経費節減に成功し、観客動員は伸び悩みつつも来年度から黒字運営が実現できる可能性も出てきたという。が、そのとき「楽天」という名前を付している親会社は「東北の野球チーム」に対して、どれくらいの金額の「ネーミングライツ」を支払うつもりでいるのだろう? 「自分の球団」だから儲けは自分のものというのでは、勝たなければ観客が増えないのと同様、「新球団」とはいえないはずだが・・・。

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