ドジャースに移籍した大谷翔平選手が、韓国でダルビッシュ投手の投げるパドレスと開幕戦……と、華々しく開幕したはずのメジャーリーグに暗雲が垂れ込めたのは、大谷選手の通訳という以上に家族のような関係にあった水原一平氏が非合法賭博に手を出し、7億円近い借金を重ねたという事件が生じたからだった。
その事件の今後の行方は、まだわからない。が、スポーツと賭博(ギャンブル)、そして芸術(アート)という三つの行為には、じつは密接な関係がある。
古代ギリシアに生まれたスポーツは、オリンポスの神々の美しい肉体に近づこうとする行為。そして神々の意向を伺う行為が賭博であり、神々を詩や音楽、絵画や彫刻で讃える行為が芸術で、スポーツと賭博と芸術は、オリンポスの神々に起源(ルーツ)を持つ「兄弟文化」と言え、古代オリンピックで、アスリートたちをアートで讃えると同時に、勝者を予想する賭博も行われていた。
さらにスポーツは、民主主義社会でしか生まれなかった文化とも言える。
社会の指導者を選挙で選び、話し合い(議会)で運営される民主主義社会は、暴力(武力・戦争)による支配を否定したため、殴り合いや取っ組み合い、丸い物(ボール=太陽=支配者の象徴)の奪い合いといった暴力行為が、ボクシング、レスリング、フットボールといった遊び(スポーツ)に変化し、競技(ゲーム)として発展した。
だからスポーツは民主主義社会を生み、発展させた古代ギリシアと近代イギリスで生まれたと言える。
が、そのイギリスでは、世界に先駆けて1960年に「賭博解禁法Gambling & Betting Bill」が誕生。公認の賭け屋(ブックメーカー)で、あらゆる賭博が許されることになった。
そのとき政府は、議会に対して次のような声明を発表した。 「ギャンブルはコントロールすべきだが、禁じるべきではない(略)禁止したためにかえって犯罪を生むものである。(略)ギャンブルは適正な範囲で行われる限り人の人格や家庭及び社会一般に対して大きな害毒を流すものとは考えられない」(谷岡一郎『ギャンブルフィーヴァー』中公新書より)
この結果ロンドンには当初100を超す賭け屋が出現した(それまで闇社会の反社会的団体だったのが表舞台に現れたのだ)が、今日では掛け金の上限と前払い制を守り、税金を納め、ギャンブル依存症患者の更生施設に協力する5〜6社に淘汰されたという。
アメリカでは、18年にスポーツベッティング(スポーツ賭博)が首都ワシントンと38州で合法化され、今日1・6兆円の規模に膨らんでいる。
が、掛け金の前払いや上限等が制度化されているため、今回の水原一平氏の闇賭博事件も、スポーツ賭博を禁止しているカリフォルニア州でこそ起きた一件と言えなくもない(もちろん賭博合法の州でも、闇賭博は存在するが)。
このスポーツ・ベッティングを、日本でも解禁して、スポーツ振興の財源にしようという動きがある。
私はそれに大賛成だ。なぜなら賭け(ギャンブル)は、公平でなければ成立しないので、親会社に取引関係や利害関係の存在する企業スポーツでは不可能なのだ。
日本でtoto導入の時も同じ理由で賛成し、衆院の文教委員会で、賛成の意見を述べさせてもらった。その結果かどうかはともかく、今ではJリーグのチームを企業名で呼ぶメディアもなくなった。
だからスポーツベッティング採用の結果、プロ野球もチーム名から親会社の名前が消えれば、日本の野球(スポーツ)も、より大きく発展すると思うのだが……。
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