今夏の東京オリンピックの開催が疑問視され続けるなか、日本のメディアはあまり大きく報じなかったが、けっしてオリンピックと無縁ではない大きな出来事があった。
それは1月19日、トランプ大統領が退任する前日、ポンペオ国務長官が次のような発言をしたことだ。
「中国政府は、新疆ウイグル自治区でウイグル族に対して、ジェノサイド(民族集団大虐殺)を行っている」
中国政府の漢民族以外の民族に対する人権を無視した弾圧政策は、過去にも世界中のメディアが報じてきた。
香港での民主化運動の弾圧、内モンゴル自治区の小中高校でのモンゴル語の使用禁止と中国語の強制、チベット族とチベット仏教に対する弾圧、そしてウイグル族に対する弾圧……等々。
それを理由に、世界各国の人権団体がIOC(国際オリンピック委員会)に、22年の北京冬季オリンピックの開催を考え直すよう申し入れたこともあった(2020年9月)。
が、それでも、さすがに「ジェノサイド」という言葉が使われることはなかった。
ジェノサイド(民族集団大虐殺)とは「民族浄化」とも訳され、一つの民族を完全に抹殺してしまうような虐殺行為で、ヒトラーの率いたナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺(ホロコースト)などを指す言葉なのだ。
そのような強烈な言葉を、トランプ大統領と共に退任する日の前日、ポンペオ国務長官が口にしたのだが、バイデン新大統領の閣僚となったブリンゲン新国務長官も「ポンペオ発言」と同意見だと表明。
中国政府のウイグル族への人権弾圧については、ローマ法皇も昨年出版した自著のなかで懸念を表明していた。
その実態を某中国ウォッチャーに訊いてみると、前政権の胡錦濤主席までは、反中国デモを繰り返すウイグル族の指導者を逮捕拘禁する程度だったのが、現在の習近平主席になってからは、ウイグル族の若い女性を新疆ウイグル自治区から遠く離れた地域に強制移転させたり、不妊手術を強制したり、男性は百万人以上が逮捕拘禁され、ウイグル族は子孫を残せない状態に置かれるようになったという。
このままの状態が続けば、2世代後にはウイグル族は存在しなくなるとも言われ、それが中国政府の「政策」だと言う人もいて、アメリカ政府の国務長官(日本の外務大臣に相当)は「ジェノサイド」という言葉が使ったというのだ。
「ジェノサイド」を行っている(と指摘されている)国で、「平和の祭典オリンピック」を開催していいのか?
それと同時に、考えねばならないのは、そのような中国情勢が今夏の東京五輪に与える影響だ。
菅義偉総理は「新型コロナに打ち勝った証(あかし)として東京五輪を開催する」と繰り返している。その言葉の真意は「新型コロナに打ち勝った証」を「中国に奪われたくない」との政治的意図と、「開催による経済効果に期待する」とのGo to Olympicとも言うべき経済的意図だろう。
その中国に「ジェノサイド」という大問題が起きたのは、東京も北京も相次いでの中止が可能(日本や欧米にとって政治的問題はクリヤー)と考えるべきなのか?
それとも2大会連続中止による経済的損失を避けたいIOCと、「経済を回したい」日本の意図が一致して、東京大会だけは何としてでも開催しようと無理矢理開催に走ろうとするのか?
いずれにしろオリンピックは、政治であり、経済であり、スポーツではないのですね。
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