昨年12月のIOC(国際オリンピック委員会)臨時総会で、オリンピック開催都市に、独自に新たな競技種目を選ぶことが認められた。
つまり一度は競技から外された野球とソフトボールや、空手やスカッシュなども、新たに五輪競技として採用される道がひらかれたのだ。
開催地での人気スポーツをオリンピックに反映させることによって、チケット収入やスポンサー収入、それにテレビ放映権料の追加収入……等々につなげたい、というのがIOCの狙いだろう。
そこで2020年東京五輪では、日本で人気の高い野球・ソフトの採用が有力視されている。が、そう簡単に決まるわけでもない。
なぜなら最近の肥大化したオリンピックは出場選手だけでも膨大な数にのぼり、ロンドン大会では204の国と地域から約1万1千人もの選手が参加した。
5年後の東京大会も、既にほぼ同数の参加者が見込まれ、それに野球とソフトが加われば、1チーム25人、男女各10チーム合計500人の選手増加となる。
そのうえ練習要員・監督・コーチ・審判・役員が加わると、東京の宿泊施設=選手村やホテルは大丈夫なのか……と心配にもなってくる(メジャーリーガーたちが選手村に宿泊するとは思えませんからね)。
そこで野球とソフトボール以外の競技にも採用されるチャンスはあるはず……と思えるなかで、ちょっと注目したいのが、綱引だ。
綱引と聞いて、そんな運動会での「お遊び」のような競技がオリンピックに? と首を傾げる方がいるかもしれないが、綱引は、かつて1900年第2回パリ大会から1920年第7回ロンドン大会まで、オリンピック陸上競技の正式種目として(男子だけだが)行われていた(他に、珍しい競技では、ラクロス、モーターボート、綱上り……なども正式競技として行われたこともあった)。
現在、綱引は室内・室外2種類の種目があり、どちらも1チーム8人で合計体重を揃えて行うのが国際ルール(男子は560〜720まで5階級、女子は480〜560まで3階級)。
特に難しいルールはなく、反則として、炭酸マグネシウム以外の滑り止めを使うこと、足の裏以外の身体の部分を床や地面に着けること、最後尾の選手(アンカー)以外が手のひら以外の部分(脇や肘)を使うこと……などが禁じられている程度だ(アンカーは、綱を身体に巻き付けることが許されている)。
陸上競技のリレーや駅伝の最後の選手をアンカー(錨)と呼ぶようになったのも、綱引の用語からの転用で、それだけ綱引きは他のスポーツにも影響を与えた基本的なスポーツであり、人気スポーツとも言えるのだ。
また、「オリンピックで重要なことは勝つことよりも参加することであり、人生で重要なことは成功することでなく努力することである」という有名な言葉が生まれたのも、きっかけは第4回ロンドン大会での綱引競技だった。
イギリス・チームがスパイクの付いた靴を履いていたことにアメリカ・チームが猛抗議し、その対立が他の競技にも波及した。そこで、アメリカ・ペンシルバニア州の大主教が説教でその言葉を口にし、それに感銘したクーベルタン男爵が繰り返し用いて広めたのだった。
野球やソフトボールも五輪競技になってほしいと思うが、より単純で興奮できるスポーツも、見てみたい気がする。
東京がどの競技を採用するか……その提案は今年7〜8月のIOC総会で行われる予定だ。 |