大毎、阪急でリーグ優勝を6度経験。何故か日本シリーズでの優勝経験はない。その名監督が唯一つのリーグ優勝未経験の近鉄を率いて首位を独走中。前期優勝のマジックが出る直前、名監督は慎重だった。
――前期優勝目前、おめでとうございます。
西本 (微笑みながら)アンタ、何いうてんのや。マスコミだけやで、気の急く(せく)話するのんは。
――しかし優勝勝率新記録の声も出るほどで……。
西本 (ブ然として)アホなこといえ。野球を知らんヤツに限って優勝、優勝と騒ぐ。
――近鉄があっさり優勝を決めてしまうとパ・リーグが面白くなくなってしまう。
西本 近鉄ファンかて野球ファンやないか。今まで待っててくれたファンのためにも、頑張らんといかん。
――でも、もう少し混戦になった方が面白いような……
西本(じろりと睨んで)どうせえいうんや。ウチが負けなアカンのか?アンタ、近鉄は日本シリーズに出たことないチームやで。一つ一つ勝つこと以外に考える余裕なんかない!
――日本シリーズは、宿敵巨人とやりたいでしょう?
西本 ……。
――阪急時代の仇を取る……。
西本(声を高めて)いま何月やと思うてんのや!野球ちゅうもんはどこで何が起こるかわからんもんや!
――しかし、近鉄の優勝は天地がひっくり返りでもしない限り決まったような……。
西本 アホいえ! 優勝、優勝ぬかしおって。ワシらは一戦一戦を負けんように、負けんようにと、ただそれだけでやってるんや!
――でも、今の打線なら、負ける気がしないでしょう?
西本(マニエルの打撃練習を見つめながら)野球いうもんは、そんなもんやない……。
――どんなもんですか?
西本 ……怖いもんや。 (玉) |