「より速く・より高く・より強く」は、オリンピックのモットー(努力目標としての標語)とされている。
が、1960年ローマ五輪ボート競技の金メダリストでドイツ人哲学者のハンス・レンクは、現代スポーツの標語としてそれでは不十分と考え、「より美しく・より人間らしく」を加えることを提唱した。
確かに「速く・高く・強く」だけでは何やら一時代昔の高度経済成長時代の上昇志向一点張りの標語のようで、レンクの主張のほうが、21世紀の新しい時代の考え方と言えるだろう。
その意味で、先週幕を閉じた世界陸上4×100メートルリレー(銅)と50キロ競歩(銀と銅)で日本人選手がメダルを獲得したのは、新時代を切り拓く見事な快挙に思えた。
100m9秒台の記録の選手が一人もいないにもかかわらず、卓越したバトンリレー(アンダーハンドパス)の技術で、9秒台選手の居並ぶ強豪国と肩を並べて表彰台に立ったのは、まさに「速さ」や「パワー」に優る「技術立国日本」の力を見せつけたものと言える。
そして直立2足歩行を行う人間にのみ可能(他の動物には不可能)な競歩での2個のメダルも、いかにも日本人的な緻密な技術の錬磨による成果であり、合計6人のメダルは少子化など数多くの問題を抱える日本社会の将来にも、一つの考え方として光明が照らされたようにも思えた。
しかし現実の日本社会の将来は、そう喜んでばかりはいられない。
3年後の2020年に迫った東京オリンピックパラリンピックに続いて、25年には大阪万博、26年には札幌冬季五輪を招致するという。これではまるで、半世紀前の高度経済成長の二番煎じ。
いったい何を考えているのか!?もっと他に日本社会の歩むべき将来の道筋はないのか!?……とも思うが、やるからには新しい時代を切り拓くことをやらねばならない。
それには、リレーと競歩とハンス・レンクが手本を示してくれたと思えるのだが……。 |