WBCでの日本代表チームの優勝は、本当に素晴らしかった。
準決勝のメキシコ相手の逆転サヨナラ勝ちにも興奮したが、決勝でアメリカを破り、選手全員が大活躍し、最後は大谷投手がエンゼルスの同僚でアメリカ・チームの主将トラウト選手を三振に!
その見事な結果に水を差す気は毛頭ない。が、こういう機会にこそ決して忘れてはならない事実があることを記しておきたい。
それは、この日本代表チームの快挙が日本の野球界全体に好影響を与えるだろうか? 日本の野球の未来は明るい! と叫んだアナウンサーもいたが、本当にそう言えるだろうか? それは大いに疑問だ。
最近の日本の野球人口の減少は著しく、中学高校ではサッカーやバスケットボールよりもはるかに少なくなった。
WBCの優勝という結果は、その減少の歯止めに少しはなるかもしれない。が、WBCで日本代表チームが見事な試合を闘っているときも、甲子園球場では高校野球センバツ大会が開催されていることに違和感を感じた人も数なくなかったに違いない。
もしもWBCを、サッカーのワールドカップと同じように、日本の野球界最高の目標とするのであれば、日本の野球界全体で日本代表チームに注目し,応援したはずだ。
が、日本の野球界は、プロ、社会人、大学、高校、中学、ボーイズリーグ、リトルリーグ、さらに女子野球と、すべてが別々の組織で、まったく統一されていない。
だからセンバツ大会の開会式で、文科大臣が高校野球出身選手がWBCでも活躍……と挨拶してもチグハグな印象で、実際日本代表チームに甲子園で活躍した選手はさほど多くはない。高校野球とプロ野球が密接につながってるとは言い難いのだ。
サッカーの場合は事情が違う。W杯カタール大会に出場した26人の選手が、11〜21歳の間に所属していたクラブや学校に対して、JFA(日本サッカー協会)は「育成還元金」として一律30万円、合計7千5百万円を支給した。
これは、前回のロシアW杯から始まった制度で、Jリーグの下部チームや大学高校の部活動から地域のクラブまで、すべてのサッカーチームがJFAに所属しているから可能な行為であり、一体感ある選手育成システムと言える。
野球の場合は大正時代から昭和初期にかけて、朝日新聞社が夏の甲子園大会、毎日新聞社がセンバツ大会と都市対抗(社会人)野球、読売新聞社がプロ野球を組織して発展してきた歴史があるため、日本の野球界全体を一元化し、統一組織へ再編成することがきわめて難しくなっている。
そして、その結果日本の野球界は発展が滞ってしまった。
Jリーグが誕生した1993年頃のプロ野球(NPB)の年間市場規模は1千5百億円程度で、MLB(米大リーグ)と同程度だった。が、今ではMLBが1兆円規模に拡大。NPBは変わらず、選手年俸もMLBが平均約5億5千万円で、NPBの約4千3百万円の10倍強に格差が広がってしまった。
そしてMLBとMLB選手会はWBCを主催し、その利益の66%を得て(NPBは13%)、多額の興行収入を手にすると同時に、さらに世界中から優秀な選手を獲得し、組織を発展させようとしているのだ。
NPBが再びMLBと再び肩を並べる組織に回復し、発展するのは不可能だろう。が、日本の野球界全体を発展させる一元的な組織への改編を考えるときが来ているのではないだろうか?
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