以前本欄でも紹介したeスポーツ(対戦型コンピューターゲーム)は、2024年のオリンピック・パリ大会から正式競技に採用されそう、とも言われていた。
が、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長はそれを否定。パリの五輪組織委員会も採用しないことを正式に表明した。
IOCは、eスポーツによって若い世代のオリンピックへの関心度の高まりが期待できると同時に、ゲーム会社のスポンサーシップ(資金力)も歓迎していた。
しかし今年9月、アメリカ・フロリダ州で開かれたeスポーツ大会の予選ラウンドで、敗退した有力選手が銃を乱射するという事件が発生。犯人も含めて3人が死亡する大事件となった。
IOCやパリ組織委は、直接的には事件に言及しなかったが、バッハ会長はeスポーツについて見解を発表。「オリンピックの価値観と矛盾する。暴力や差別を助長する競技が我々に加わることはありえない」と断言。
仮想現実競技(ヴァーチャル・リアリティ・スポーツ)がオリンピックの正式競技になることは将来的にも否定されたようだ。
その一方でオリンピックや世界のスポーツ界では、もう一つの仮想現実の動きが注目されている。
それは今年の夏にヨーロッパのサッカーチームのパリ・サンジェルマン(PSG)が、ファンを対象とした仮想通貨(ヴァーチャル・カレンシー)を発行したことだ。
PSGの独自通貨(仮想通貨)を一定のレートで手に入れた(買った)ファンには、クラブのロゴ・マークやユニフォームの色やデザインを選んだり、スタジアムで流す音楽や映像を選ぶ投票権が与えられるなど、チーム運営に参加できるという。
さらに将来的には使える範囲が広げられ、主催ゲームのチケットやグッズの購入なども、スマホを通じて換金した「PSG通貨」で取引されるようになり、選手の年俸も仮想通貨で支払われる予定だとも言われている。
そして、そのような拡大を通じてPSG通貨の価値が上がれば(レートが高くなれば)、チーム運営にとっても大きな利益になることが期待されているのだ。
サッカーチームだけでなくサッカー選手も個人のファンクラブを中心に、独自通貨を発行する動きがある。
ブラジル代表のロナウジーニョは「RSコイン(ロナウジーニョ・コイン)」を発行し、サッカー学校設立の資金集めを始めている。コロンビア代表のハメス・ロドリゲスやヴィッセル神戸入りしたスペイン代表のイニエスタなどは、ファンクラブをネットワーク化して交流を深め、独自のトークン(限られた場所や地域だけで通用する疑似通貨)を発行。サッカー関連事業の資金集めに利用している。
世界一流のサッカー選手は年俸が莫大なだけに、それを基金にして、ファンクラブだけでなく世界的に信用を得ることのできる独自通貨の発行も可能なのだ。
そこでそのようなトークンや仮想通貨の発行に目を付けたのがIOCで、IOCは将来的にオリンピック関連事業の取引すべての決済を、独自の「オリンピック通貨」で行えるようにしたいと考えているらしい。
つまり世界的イベントのオリンピック(とパラリンピック)の「信用」を背景に「オリンピック・コイン」を発行。オリンピックの発展を願う世界中の人々(スポーツマンやファン)が、その通貨の値上がりを願って手に入れようとすれば、「オリンピック・コイン」の価値は上昇。それによってオリンピック開催都市の赤字運営は解消。オリンピック開催立候補都市も増加し、オリンピック(とパラリンピック)は今後ますます発展する、というわけだ。
2020東京五輪にはまだ関係ない話題だろうが、仮想通貨による現実の五輪の発展は可能なのか?
肥大化したオリンピックの現実(リアル)を救うには、仮想(ヴァーチャル)の夢(ドリーム)に頼る以外ないのかも? |