2016年の東京オリンピック招致を、これまで私は少々冷ややかな目で見てきた。
その理由は、北京、ロンドンと続いた後、再び東アジアに聖火が来るのはどう考えても無理に思えたからだ。
最も高額の1500億円前後の放送権料を支払っているアメリカが、96年のアトランタ以来5大会連続して開催地でなくなることも考えられず、どうせ16年の五輪はシカゴで決まりと思っていた。
無理なことに税金を使うのは無駄とも思っていた。が、情勢は少々変化したようだ。
原因はサブプライムローンに端を発した世界不況。シカゴは世界の先物取引(穀物市場)の総本山。そこが最悪の不況にあえいでいる。
メジャーリーグでヤンキースに次ぐ人気を誇るシカゴ・カブスのオーナー会社(様々なメディアを経営するトリビューン社)が売却され、球団売却が試みられたが、買い手が付かず、トリビューン社は倒産した。
次回12年の開催地ロンドンも資金不足から選手村の規模を縮小するなど、不況の煽りを受けて苦しんでいるという。招致のためにはイギリスのメイジャー首相も先頭に立って運動したが、先立つものがなければ一国の元首でも約束は守れない。
14年冬季大会の開催地ロシアのソチも、プーチン前大統領が力を入れて招致に成功したが、経済危機と近辺のグルジア情勢などから平穏な開催が可能かどうか、危ぶむ声もある。
おそらくオバマ新大統領は自分の本拠地のシカゴ開催を支援するだろう。が、今後のアメリカの実体経済の動向を考えると、無事に安全に開催できる都市として、東京の評価がIOC委員の間で高まってきたというのだ。
可能性が出てきたなら開催を目指すほうがいい。暗い話題の多い昨今、明るい話題の「祭」は絶対に必要である。「国威発揚や国家間の競争ではないオリンピック」「緑と水の五輪」という東京の主張も悪くない。投票は来年10月。はたして都民と国民の声は…?
**********
文中、アトランタ五輪の後、シドニー、アテネ、北京、ロンドンと引き継がれた聖火が、再び東京(アジア)に来る可能性は低い、という書き方をした箇所がありますが、これを、冬季オリンピックも含めて地域別に考えた場合、アトランタ以降の聖火の移動は、「北米(アトランタ)―アジア(長野)―豪州(シドニー)―北米(ソルトレイクシティ)―欧州(アテネ)―欧州(トリノ)―アジア(北京)―北米(バンクーバー)―欧州(ロンドン)―欧州(ソチ)…となり、次にアジア(東京)が選ばれても何の不思議もない、ということも書き添えておきます。
|