JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長が、2019年6月の任期満了を
機に会長職を「退任」すると、発表した。
東京五輪招致委員会の理事長として「海外のコンサルタント会社(ブラックタイディング社)」へ180万ユーロ(約2億3千万円)のカネを送金したことが、フランスの検察当局から「賄賂」と疑われ、海外へ出れば逮捕も……と言われるなか、業務にも支障を来し始めたため、即刻「辞任」か? とも言われるなか、最後まで「身の潔白」を主張しての引き際と言えるだろう。
では、招致委時代の竹田理事長は、本当はシロなのか? クロなのか?
そう問われると、私はどちらとも言えない、としか答えられなくなる。
というのは、五輪招致に立候補した都市は、すべてとは言わないが、昔から多かれ少なかれ「賄賂」と疑われかねない「プレゼント攻勢」を、IOC(国際オリンピック委員会)の関係者相手に行ってきたからだ。
古くは1964年の東京オリンピック招致や72年の札幌冬季五輪の招致でも、骨董品の収集が趣味だった当時のブランデージIOC会長に、日本から象牙の根付けや柿右衛門の壺が贈られたと言われている。
長野冬季五輪の招致では当時のサマランチ会長に、1千万円の価値のある日本刀が贈られたとの話も聞いた。大会後、多額の使途不明金の書類が焼却処分されたのは有名な話だ。
もちろん日本だけではない。各国の五輪開催立候補都市は、IOC委員に対して、さすがに現金をばらまくのは露骨すぎると思ったのか、会議出席要請の名目で換金可能なファーストクラスの航空券を何度も送りつけることが常態化したときもあった。
02年のソルトレーク冬季五輪の招致を巡り、あまりに多額の金品が動いたことから、IOCは立候補都市の関係者がIOC委員に直接会うことを禁じたり、IOC委員の立候補都市への訪問を規制するなどの「改革」に手を付けることにもなった。
が、その結果、五輪招致を「手助けする」コンサルタント会社が跳梁跋扈して暗躍。
前回のリオデジャネイロ五輪で招致委や組織委の会長を務めたブラジル五輪委員会の会長カルロス・ヌズマン氏は、フランス・アメリカ・ブラジルの検察庁の合同捜査の結果、一昨年10月に逮捕された。
それは今回の竹田会長の「賄賂疑惑」とそっくりの構図だった。
ヌズマン氏はリオ州知事を通じて国際陸上競技連盟会長のセネガル人ラミン・ディアクIOC委員の息子の銀行口座に200万ドル(約2億2千万円)を振り込み、アフリカのIOC委員15名が16年五輪の開催地としてリオに投票するよう、票の取りまとめを依頼したとされたのだ。
竹田会長が招致委理事長として、180万ユーロを送金したシンガポールのコンサルタント会社も、ディアク親子との関係が深い会社とされ、フランス検察当局は、モナコに本部を置く国際陸上競技連盟の贈収賄事件(ロシアの陸上選手のドーピングによる五輪出場禁止を回避しようと多額の金品が動いたとされる事件)の捜査中に、日本の五輪招致委からのカネの動きをつかんだとされている。
スポーツによる世界平和という高邁な理想を掲げたオリンピックも、舞台裏はカネを巡る人間の黒い欲望が渦巻く世界。高邁な目的は手段を正当化する、などと言う気は毛頭ないが、このような五輪の裏面史を、バッハIOC会長以下IOC委員の多くや、東京五輪招致委の幹部連中が知らないはずがない。
来年(2020年)の東京五輪までは務めるはずだったJOC会長やIOC委員の役職退任を発表した竹田氏の会見を見ながら、黒澤明の映画のタイトルを思い出した。『悪い奴ほどよく眠る』
(註:竹田氏がJOC会長を辞任したあと、後任会長には山下泰裕氏が選ばれ現在に至っている)
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