コラム「スポーツ編」
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掲載日2012-10-10
この原稿は、月刊誌『新潮45』10月号の特集「頭を冷やせ!」に書いたものに、大幅に加筆して、ネット・メディアNews-Logに掲載したものです。News-Logでは「メディア」というジャンルで公開しましたが、本ホームページでは“蔵出しコラム・スポーツ編”で公開します。御一読下さい。

メディアの「文化(スポーツ)支配」の危険性

「では、ロンドン現地で取材したオリンピックの様子を見ていただきましょう」

 そんな前振りだったから、どんな「取材報告」が見られるのかと期待したら、何のことはない。お笑い芸人が、ただオリンピックの試合会場で、日本の選手を応援していただけ。

 大声を張りあげて勝利を喜び、大袈裟に敗戦を悔しがる。五輪の試合は見たいと思うが、そんな芸人の表情を、誰が見たいと思うものか。

 ましてや、そんな個人的遊興の様子を「取材」と称するとは片腹痛い。テレビ局の五輪取材特別予算を使って、ただ遊びに行っただけ。スポーツを利用したバラエティ番組としても、程度が低い。

 まずはロンドン五輪の「取材」のレベルの低さを指摘したが、最近のテレビは(とくにスポーツ・ニュースやワイドショウは)取材のレベルが低すぎる。

 現場へ行くことが取材だと思い込み、現場へ行けば取材をした、と胸を張る。野球場へ足を運び、試合前にベンチから出てくる選手に向かって「調子どうですか?」と話しかける。

 ただそれだけのことを本気で「取材」と思っているのか、その様子を恥ずかしげもなく映し出し、ニッコリ笑顔で「いいですよ」と軽くあしらわれ、「○○選手は、今日も調子が良さそうです」とは、馬鹿も休み休みにしてほしい。

 そしてロンドン五輪でのお笑い芸人と同様、球場の客席で拍手する様子が映し出され、まるでタレント気取り。さすがに男性で、ここまで馬鹿のできるアナウンサーやレポーターは見られないが、女子アナは結婚相手を見つけることが主たる目的かと思ってしまうほどチャラチャラと笑顔を振りまく。

 はたしてこの女子アナやタレントは、プロ野球やオリンピックの歴史と現状を少しでも勉強したことがあるのだろうか……と、首を傾げたくなる。

 なぜ野球の「ピッチャー」を「スローワー」と呼ばないのか……、なぜ左腕投手を「サウス・ポウ(南の手)」と呼ぶのか……、たとえ知ってなくてもいいから、疑問を抱く感性、調べてみようと思う好奇心くらい持ってほしいと思う。

 とはいえ、最低のスポーツ「取材」と「レポート」が罷り通るのは、「現場」にいる彼らだけの責任ではあるまい。

 9月上旬、プロ野球選手会が来年の第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)への出場を発表した。アメリカ・メジャーと選手会ばかりが利益を独占していることに対して反旗を翻し、不出場を唱えていたのが、一転して出場を決めたのは、けっして利益の分配が正されたからではない。

 詳細は省くが、朝日新聞がいち早く報じたように「大リーグ側から読売が買った権利の一部を、(日本のプロ野球=NPBが)無償で手に入れた」からで、つまるところ読売新聞社とプロ野球選手会の間の「利権争奪戦」だったのだ。

 これを契機にメディアの注目は、一気に日本代表チームの監督人事に移ったが、これとてルールでは加藤コミッショナーに一任されているが、実際は読売新聞社のドン渡邉恒雄氏が決めることは衆目の一致するところだ。

 つまり日本のプロ野球のことは、すべて読売新聞社と、その最高責任者である渡邉恒雄氏の掌中にある。そのため、マスコミは(特に在京キイ局のテレビは)「正しい報道」など不可能なのだ。

 朝日新聞は、WBCと日本プロ野球選手会と読売新聞社の顛末を書いたとはいえ、朝日は夏の甲子園大会の主催者として全国高等学校野球連盟(高野連)に「天下り役員」を出すなど、深いつながりがあるため、高野連や高校野球に関する「批判」はタブー。

 高野連の会計をオープンにすることや夏の甲子園でバーンアウトして肘や肩を痛めたピッチャーについては、朝日以外のメディアも何故か、あまり追求しない。

 その他マラソンや駅伝大会の主催、女子サッカー・チームの所有、高校サッカー、高校ラグビー、高校バレーなどの主催者にマス・メディアが名前を連ねているため、日本のスポーツ界は、スポーツ・ジャーナリズムが存在できない状態になっている。

 本来ならばスポーツ・ジャーナリズムがスポーツに対するまっとうな批判を展開し、日本のスポーツを正さなければならないのに、そのスポーツ・ジャーナリズムを発揮する媒体(メディア)が、スポーツから利益を得るスポーツの所有者、スポーツの主催者となっているのだから、日本のスポーツ報道は歪められ、堕落する。それも当然の結果といえるだろう。

 おまけに、意見や主張が一本化するのを避けるため(批判勢力を育てるため)、ほとんどの先進諸国では法律で禁止されている「クロス・オーナーシップ」(テレビやラジオや新聞を、同一の資本が所有する制度)が、我が国では「系列」と称して結びついている。そしてそのことを、多くの人が何の疑問も抱かず、常識と思っている。

 早い話が我が国では、スポーツ(特に野球)について、多くのメディアで言論の自由が圧殺されている状態で、その結果スポーツの何たるかも知らないタレントや女子アナの馬鹿騒ぎが「取材」と称されるまで、スポーツ報道は堕落してしまった、というわけである。

 しかし、コトはスポーツだけではない。たとえば、クラシック音楽。「日本一の実力」と自他共に認める日本のオーケストラは、NHK交響楽団とされる。

 NHKは「全国の視聴者の皆様」から集めた約6千億円超の受信料のなかから、毎年14億円を支出し、他に出演料等合計約20億円前後で、NHK交響楽団の援助を行っているという。

 そのため『クローズアップ現代』で、不況下の経営に悩むオーケストラ……という話題を取りあげたときも、札幌交響楽団その他の観客サーヴィスやチケット販売の努力と現状は取りあげても、NHK交響楽団は例外。

 金銭的にも施設的にも悩んでいない「自分の」オーケストラは取りあげず、なぜ取りあげなかったかという解説もなく、ようするにNHKは音楽ジャーナリズムを放棄しているのだ。

 それでもNHK交響楽団が豊富な資金力を背景にして、世界的に素晴らしい活動をしている……というのであれば、まだ認めることもできなくもないのだが、世界的にも一流とは言い難い外国人指揮者を呼んで、ルーティーンのように演奏会をこなすだけ。

 しかも日本一のオーケストラといっても所詮は「日本放送協会(NHK)の放送交響楽団」で、世界的には(BBC交響楽団のように、よほど素晴らしい活動をしない限り)ワンランクもツーランクも下にしか評価されないのだ(通常「放送交響楽団=ラジオ・シンフォニー・オーケストラ」は、「フィルハーモニー管弦楽団」「オペラ座管弦楽団」「シンフォニー・オーケストラ」に次ぐランクである)。

 それでも、NHKでNHK交響楽団を使った「人気番組」の一つや二つもあれば、20億円の価値もあるといえるかもしれないが、今のままでは海外で活躍するほどではない音楽家の生活保障と、NHK理事の天下り先でしかない、というのは言い過ぎだろうか?

 そういえば読売新聞社も、読売日本交響楽団を所有し(「読売日本」の「日本」とは「日本テレビ」の「日本」らしい)、読売新聞は、一時「オーケストラを持つ世界で唯一の新聞社です」などという馬鹿なCMを流していた。が、それは「世界で唯一、音楽ジャーナリズムを放棄した新聞社です」と言うに等しいまったく恥ずべきCMだったのだ。

 そんな日本のトップ・オーケストラのテイタラクを尻目に、最近隣国のソウル・フィルハーモニー・オーケストラが、音楽監督兼常任指揮者のチョン・ミュン・フンとともに、レコード時代からの世界の録音界の名門ドイツ・グラモフォンと契約。次々と新録音CDを世界のクラシック音楽ファンに向けてリリースしているのに較べて、日本のトップ・オーケストラといわれるN響や読響は、国内だけでチマチマとコンサートを重ねるだけ。

 それもまた、現在の日本の国情、国勢を表すものなのか? ならば、日本の現状、現在の低迷、閉塞感……の足を引っ張ってるのは、日本のマスメディア……とも言えるのではないか?

 スポーツに話を戻すと……現在、日本の二大メディアである読売グループと朝日グループを中心に、日本の野球界やスポーツ界は「言論の自由」を奪われ、「真っ当な批判的言論」を失い、すなわち日本の野球もスポーツも発展の余地がきわめて小さくなっている。

 スポーツや音楽は、単なる文化というに止まらず、ポスト工業化社会の経済を動かす原動力の一つでもある。そのことは、オリンピックやワールドカップを見れば一目瞭然。そのスポーツや音楽の発展を、我が国ではジャーナリズムを担うべきメディアが、ジャーナリズムを放棄することによって妨害しているのだから、何をかいわんや……。

 アメリカ第3代大統領トーマス・ジェファーソンは、新聞のない政府か、政府のない新聞か、と問われたなら、私は躊躇なく後者を選ぶ、と口にしたという。新聞(ジャーナリズム)がきちんと存在すれば真っ当な政府は生まれるが、新聞がなければ政府も死ぬのだ。ジャーナリズムが堕落すれば、政府も堕落するのだ。

 スポーツや文化も同じ。日本のスポーツや文化を殺さないため、メディアがジャーナリズムを放棄してスポーツや文化の所有者や主催者になることを、まず国の法律で禁止すべきだろう。もちろんクロス・オーナーシップについても……。

 そのことを主張できるのは、今のところネット・ジャーナリズムや雑誌ジャーナリズムだろうが、日本の大マスコミの「社員記者」の皆さんも、そろそろ声をあげるべきではないだろうか?

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